フィルムとX線検査13 北京2017

06 23, 2017
2017年5月、モノクロフィルムを持って北京に行ってきた。
持って行ったフィルムは「Tri-X」。滞在期間は6日間で12本を用意。

事前の準備はいつものとおり。
【準備】
・フィルムは必ず機内持ち込みする
・フィルムは紙箱からすべて出し、フィルムケースに入れたまま透明のジップロックに入れる
・できればカメラ本体にはフィルムは入れないでおく
・手荷物検査で機械に通す前に「フィルムです、ハンドチェックお願いします」と検査官に伝える
 英語では"This is camera film, Could you hand check please?”などと伝えている
・機内持ち込みする荷物とは別にフィルムを入れるバッグも用意しておくと便利
 (ぼくは布のトートバッグを用意)

結果から言うと、行き帰りともハンドチェックをしてくれた。
現像の結果も問題なし。詳細はこんな感じだった。

【行き】羽田空港
羽田空港はもうパーフェクトという言葉でしか言い表すことはできない。どの検査官でも必ずチェックに対応してくれる。しかもフィルムの入ったジップロックを見た瞬間、あフィルムですね、こちらへどうぞーみたいな感じでX線の機械の横を通してハンドチェックに進んでくれる。親切丁寧。いつまでもすばらしい羽田空港でいてください、と願わずにいられない。

【帰り】北京首都国際空港
正直期待していなかった。中国だけに絶対お役所仕事で「不可以(だめ)」「不行(むり)」とか冷たくあしらわれるだろうなーと。しかし予想に反して北京はハンドチェックに応じてくれた。

しかもこちらが「あのーもし可能でしたらー」とフィルムの入ったジップロックを見せた瞬間に「ああ、フィルムね。OK言いたいことはわかるわ」と女性検査官はチェックを受け入れてくれた。

どうしたんだ中国。もっと殺伐とした理不尽な対応を期待…はしていないが想像していたというのに一体どうしたんだ。まるで別人だ。しかも女性検査官、ジップロックにフィルムを入れていたのがよかったのか「他不錯」とちょっと褒めるようなことを言っている。

この場合の「他不錯」は「他(準備得)不錯」の意味だろう。「彼、準備がいいわ」、ということだ。言葉のまま「他不錯(彼、いいわ)」と訳し受け取ってしまうと変な方向の意味になってしまいかねないので注意が必要だ。

ただしボディチェックは相当厳しかった。お立ち台みたいなところに立たされ、全身をくまなくチェックされる。みんなそうみたい。ぼくと画伯は早々にチェックを終えて出国できたのだが、同行したバッチさん(バッチを作っているのでそう呼んでいる。今回は彼女の仕入れに同行した)はなかなか出てこない。羽田でもそうだったが、いつもチェックに引っかかるらしい。見た目が不審なのだろうか。

【結果】
帰国後、フィルムを現像する。結果すべてのフィルムに異常なし。北京は意外にもフィルムに優しい場所だった。例の強烈な大気汚染がなくなれば近いしもう少し身近な場所になるのだけどな。惜しいな。


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暗室の匂い

06 01, 2017
北京から帰ってきて、スーツケーツを開けると土っぽい匂いがした。現地では何も感じなかったのに、日本に帰ってくると自分がずいぶん違う匂いのところにいたんだなと思う。その匂いを嗅ぐと20年前の北京の風景をちょっと思い出した。

北京のホテルで休んでいる時、W氏の日記を読むと事務所兼暗室兼ワークショップ会場であるビルが来年取り壊しになるという話が出ていた。ちょうど20年前に学んでいた北京の大学を訪れ、そのあまりの変わりように20年という時間の変化の強大さを感じたばかりだったので、その知らせは胸に響くものがった。

ビルがなくなってしまうと考えた時、脳裏をよぎったのは「匂い」のことだった。来年にはもうW氏のあの暗室の匂いを体験できなくなってしまうのだ。あの場所で写真の基礎やプリントについて多くを教えてもらったので、今でも暗室の扉を開けて室内の匂いを嗅ぐと当時の記憶が鮮明に蘇る。保存された当時の記憶を強烈に呼び起こすことができる唯一無二の場所だ。

自分で作った暗室やレンタル暗室にも匂いはあるが、どれも同じではない。建物自体の匂い、設備、使う薬品、暗室の主の性格。空間の匂いは様々な要素によって変わる。暗室の数だけ暗室の匂いはある。それは一人の人の在り方を示すものであり、ひとつの文化みたいなものだと思う。

W氏の暗室の匂いはあのビルのあの部屋にしかない。どんなに建物や室内の写真を撮っても、ムービーで全体を写しても、録音しても、あの匂いは保存できない。あの匂いがないと記憶はパーっと蘇ってくれない。頭の中のどこか奥深くに沈んでいってしまって、二度と再生できなくなってしまいそうだ。どうして匂いを保存するツールは身近にないのだろう?と四合院の中庭で考えてしまった。

もしかしたらスーツケースの中の土っぽい匂いのように、思いがけずあの暗室を思い出す匂いにいつか出会うかもしれない。誰かの暗室が限りなくあの暗室の匂いに似ているということもあるかもしれない。でもその可能性は決して高くないだろう。とりあえず今年のうちはあの暗室の匂いをよく体験しておかなければ。
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20年ぶりに北京に行く

05 27, 2017
中国・北京に行ってきた。

今回の旅行は画伯と行くいつもの二人旅ではなく、昨年知り合ったT氏を加えた三人旅だった。今までにない新しい試みだ。

T氏は世界のいろいろな地域の布やパーツを使って装飾品や人形を製作している。あるとき話をしていると、北京にもいい布があるらしいですよ、という話題になった。

そのときは「いつか北京にご一緒したいものですな」「そうですな」「わはは」という社交辞令的な会話だったように記憶しているが、年が明けしばらくするとT氏が「北京本当に行きませんか?」と提案してきた。

提案してきた時期はぼくも画伯も都合がよく、しかも北京行きの航空券はマイルで二人分取れることがわかり、行けない理由はなくなってしまった。ただ他の旅行も控えていたので迷う部分もあったが、なぜか「今回の北京は逃してはなりません」という天啓にも似た直感が働き、思い切って北京に行くことになった。

北京は約20年ぶりだ。さすがに20年も経つとまさに"面目全非"、ありとあらゆるものが変わっていて、留学していた当時の面影はほとんどなくなっていた。久しぶりにやってきた、というよりは別の都市にやってきたかのようだ。

胡同を走る自転車は電動化していた。乗る人も運ぶ物も運ぶ自転車の形も変わってはいないのに、動力だけが「人力」から「電力」に変わっていた。路地を歩いていると音もなく汗もかかず、スイスイと背後から抜いていく人民たちの姿にかなり驚いた。あまりに音がしないから一度轢かれた。電動自転車や電気自動車、電子マネーなどは明らかに日本より普及している。

意外だったのは、人がマイルドになっていたことだ。20年前に日々感じていたあの理不尽さや傍若無人さがかなり緩和されている。お釣りを投げられることもないし、舌打ちされることもないし、唐突に罵倒されることもなかった。

反対に銀行で笑顔で対応されたり、店で素直に列を作っていたり、レストランの中が禁煙になっていたりして、しかもそれに従っているのを見て逆にちょっと心配になったほどだ。行く前に感じていた「久しぶりの中国…ああ怖いな…きっと嫌な目に遭うんだろうな…」という心配は杞憂だった。

5月の北京は湿度は低いが意外と暑い。夏のような日射しの中、T氏の買い付けに同行する。

現地在住の友人(出産間際の妊婦さん、滞在中に無事出産)に案内をしてもらいながら、様々な少数民族の布を見る。山のように積まれた布や大量のはぎれの中から必要なものを手早く選んでいくT氏の目つきと手の動きからは集中と緊張が伝わって来る。

選ばれた布を見せてもらうと、普段布にも少数民族にも縁がない門外漢そのもののぼくが見てもどこか引きつけられる力があった。手織りで作られ、様々な刺繍がほどこされた、草木や動物の血液などで染められた古布は色彩や質感が豊かで、独特な魅力を放っていた。

ただ単純にきれいと感じるということではなく、ちょっと不気味で、近寄りがたい存在だったがそれが実によかった。言葉にしにくいが、小さな布の背後に大きな何かを感じるというか。これらの布からどんなものができあがるのか想像がつかない。

北京は広い。買い付けが終わるとついでにどこか観光でも、という気分にはならない。地下鉄は便利だが乗り換えに駅構内を長く歩かなければならないし、中心部だとタクシーはうんざりするほど捕まらない。おまけに渋滞もひどい。

ということで夕方にはさっさと四合院を改装したホテルに戻り、風のよく通る中庭で、胡同で老北京のおじさんたちと雑談しながら買ってきた羊肉串とライチとハイネケンを楽しみながらのんびり過ごすのが日課になっていった。天安門広場すら見に行けなかった今回の旅行だが、それでも十分満足だった。

20年前、ビールも飲めない未成年にはわからなかった北京の楽しさ。近いし、美味しいし、見るべき所も多い。帰国早々早くも北京が恋しくなっている。


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NAN SKETCH JOURNAL

05 16, 2017
からっとしている。洗濯物がすぐ乾いて助かる。

今年2月にタイのナーン県に行ってきた。目的はナーン県を紹介する冊子を作ること。画伯がタイ・チェンマイの絵を2016年の個展で展示したところ、タイ政府観光庁の人が見にきてくれた。

観光庁の人はそのとき販売していたフィンランドとスウェーデンの絵をまとめた冊子を気に入ったようで、それと同じような形で冊子ができないでしょうか?という話になった。

我が家ではその冊子は「JOURNAL(ジャーナル)」という名前で呼んでいて、旅行で訪れた各国をシリーズ化しようと考えていた。過去に訪れたハワイ、イギリス、バリ島、マレーシア、台湾などで描いた絵や、資料用に撮った写真は年々増えてきている。それらは画伯の個展以外で人に見せる機会がなかったので、何か別の使い道はないだろうか?と考えていた。冷蔵庫に保管してある材料で何か新しいメニューを作ってみようというイメージ。

思いがけず「ジャーナル」の第2弾は人からの依頼で作ることになった。しかも余った材料ではなくて、現地まで食材を調達しにいくという、本来の趣旨とはちょっと違う贅沢なものになった。企画から取材、製作、印刷まですべての行程をこちらで行うので、作業は二人がかりで取り組むことになった。

もともとこのジャーナルは画伯がハワイで絵に惹かれて買って来たハワイのマップが製作のきっかけになっている。ハワイのファースト・ナショナル・バンクが1960年代に発行したもので、多分この時代にはいろいろな国で同様のものが作られていたのではないかと思う。これをお手本に、2013年に訪れたフィンランド・スウェーデンの絵をまとめたものを作った。

そしてこの度2ヶ月ほどの時間をかけて作ったタイ・ナーン県を紹介する冊子ができあがった。ゴールデンウィークの頃、銀座に行く予定があったのでダンボールいっぱいのできあがったばかりの冊子を直接タイ政府観光庁にお届けしてきた。納品は普段アップロードや郵送が多いので、直接手渡しできたのは新鮮だった。

ナーンの冊子、「NAN SKETCH JOURNAL」は有楽町にあるタイ政府観光庁にて無料で配布しています。もし興味がありましたらタイ政府観光庁にお立ち寄りください。有楽町駅から徒歩すぐです。ナーン以外にも様々なエリアの資料が集まっていますので、タイ旅行に行く前は参考になる情報が入手できると思います。

タイ政府観光庁
東京都千代田区有楽町1-7-1有楽町電気ビル南館2F
9:00~12:00/13:00~17:00 土日祝祭日はお休み
https://www.thailandtravel.or.jp


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NAN SKETCH JOURNAL。表紙。

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表にナーンの地図。開くとA2サイズ。

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裏にスケッチ。

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(左)前に作ったフィンランド・スウェーデン版 (右)ハワイで買った古いマップ

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ハワイのマップ。イラストがいい。
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外国から届くもの

04 23, 2017
一年のうちに数回しかなさそうな心地よい天気だったのでお昼に近所の中華料理屋でごはんを食べる。

スイスの写真家、RENÉ GROEBLI(ルネ・グローブリ)の写真集"DAS AUGE DER LIEBE"(英語だと"The Eyes of Love") 再発売の情報を目にした。名前と作品をすっかり忘れていたが、以前"RAIL MAGIC"というシリーズの写真をウェブ上で見ていたのを思い出した。

発行元はスイスの出版社STURM & DRANG。ウェブサイトをみると海外発送もしているようだったので注文してみた。スイスフランでのお買い物は初めてだ。

外国から物が届く。それはどこか特別な感じがする出来事だ。英語で書かれた宛名と送り元の名前、少し粗い手触りの封筒の質感、見慣れぬ梱包材、読めない消印の地名。封筒の中には品物とともに外国の空気が残っているような気がする。

まだ訪れたことのない遠い国から届いたという事実。封をされた場所と開封された場所の気温や湿度、匂いはどれくらい異なるのだろうか。どこのどんな人がこれを送ってくれたのだろうか。届いた荷物を見ているとそんなことを考えてしまう。

そういえば90年代の終わり頃、スウェーデンのワークウェアを作る会社にカタログを送ってもらったことがある。多分雑誌か何かで北欧の作業着が紹介されていたのを見たのだと思う。カラフルな色がかっこいいなーと思い、カタログを送ってもらえませんか?と連絡をしてみた。メールだったような気もするが、FAXで住所を送ったような気もする。

いずれにせよその会社、”FRISTADS”は遠く離れた極東の島のどこの誰かもわからない個人にカタログを無料で送ってきてくれた。まさか送ってくれるとは思わなかったのでとても嬉しかった。カタログの表紙はモノクロームの写真で、厚い雲に覆われた空の下、作業着を着た男性が一人湖を眺めながら道を歩いているものだった。日本と随分違うその風景は印象に残り、北欧という地域のイメージをぼくの中に作った。

もちろんカタログは今も本棚に残っている。今見てもこの写真の雰囲気は好きだ。ぼくはある日突然モノクロームの写真を好きになったのではない。モノクロームを好きになるきっかけがいろいろなところで少しずつ自身の中に積み重なっていったのだ。このカタログは間違いなくその積み重ねの一部になっている。

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泉大悟 (Daigo IZUMI)

Author:泉大悟 (Daigo IZUMI)
モノクロ写真が好きです。

「恍然大悟(コウゼンタイゴ)」は中国の成語で「ハッと悟る」という意味。

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http://www.dizumi.com/

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