絵をスキャンする

03 14, 2017
街のところどころで沈丁花の香りがする。

画伯の昔の絵をデータにすることになった。用途はウェブ用。原寸より絵を小さくして使用する。

我が家にはエプソンのA4サイズまでできるスキャナーがある。小さい絵であればスキャンすればいいのだが、困ったのは大きい絵だ。画伯は旅行中「F4」という大きさのスケッチブックに絵を描いている。これはB4より少し小さいサイズで、A4のスキャナーでは収まらない。

ではどうデータかすべきか。厳かな雰囲気の中、会議室(居間)で対策会議が2名により開かれた。その結果でてきた対策案は以下のとおり。

・A3スキャナーを持っている人に借りる
・コンビニの複合機でスキャンする
・複写する
・外注する

それなりの量をデータ化しなければならないこと、スキャンデータから複製画や印刷物を作るといったことではないのでそこまでの厳密さは求められないこと、外に絵を持ち出す手間とリスクは避けたいこと、複写の用意は面倒だといった意見が活発に飛び交い、いかにして楽をするかを検討した結果、ある程度効率を重視しつつ、自宅で作業できる方法を探るのがベストだという結論に達した。外注は仕事のときは使うがコストがかかるので今回は見送られた。

決定的な対策が出ないまま、時間だけが過ぎていった。しびれを切らした画伯は、「あとは君に一任する」と背中で語りながら会議室(居間)をあとにした。残された1名はとりあえず分割してスキャンして、フォトショップで合成してみませんか?という自分から出された意見に静かに頷き、作業に取り掛かることにした。

何はともあれスキャン開始だ。まずは色の確認から始める。絵とともにグレーカード(使ったのはこれ)をいっしょにプレビューし、グレーバランスを調整してから本番スキャンをするとうまく色が再現された。

色が整ったのを確認し、全体をスキャン。続いて切れてしまう部分を別途スキャンする。2~3枚の画像をフォトショップで開いて、マスクを使いながらくっつけてみる。しかしぼくのフォトショップの腕ではつなぎ目の部分がどうしても不自然になってしまう。それなりに時間を使って細かく作業してたのになんだよこれ、という出来だ。なかなかピチッとくっついてくれずもどかしい。それにこれを一枚一枚やっていたらいくら時間があっても足りない。やってらんない。

何か方法はないかなと調べていたら、Photoshopのパノラマ合成の機能に行き当たった。その名を「Photomerge(フォトマージ)」という。辞書によると”merge”は「併合する」とか「溶け合う」とかそんな意味だった。今まで使ったことがない機能だ。しかしこれが予想外の成果をあげた。

作業の手順はこんな感じ。
・フォトショップを開く
・「ファイル」>「自動処理」>「Photomerge」を選択する
・「ソースファイル」のところにある「参照」から合成する画像を選ぶ
・「OK」をクリックする
・勝手に合成されてできあがり

画面に画像が表示され、パソコンの内部で何か作業をしている。次の瞬間合成された画像がモニタにパッと現れた。その間多分10秒くらい。合成はあっという間に終わった。最初に合成が完了した時、「うわぁ」と声が出て椅子から立ち上がってしまった。

レイヤーのタブを見てみると指定した画像にマスクがかけられ、つなぎ目をうまく繋いでくれていた。この細いマスクの作業にさっきまで四苦八苦していたのに…。一体このアプリケーションの中はどうなっているのだろう?なんでこんなに繋ぎ目が自然になるのだろう?どういう計算が行われているんだろう?これを作った人は一体どんな頭脳を持った人なんだろう?驚きのあまりたくさんの疑問が頭の中を駆け巡った。そして素直に心から思った。すごいぜPhotoshop!ありがとうAdobe!会議室兼作業場(居間)に惜しみない拍手と歓喜の声がこだまする。

このPhotomergeのおかげでスキャンははかどり、多くの絵を効率良くデータ化することができた。今のところパノラマ写真を作る予定はないが、ちょっと試してみたくなる。何よりもまず今後もスキャンに大活躍すること間違いなしだ。もうPhotomergeなしでは大きな絵のスキャンは語れない。

できあがった画像を画伯に見せるとすごーいと言っていた。なんかぼくの感動と差がある気がするが、とりあえずAdobeはすごい会社です。


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フィルムを現像しながら本を読む

03 09, 2017
朝ジョギングをすると畑に霜が降りていた。

タイのナーンで撮ったフィルムを現像する。フィルムの現像は「Paterson(パターソン)」というイギリスのメーカーのタンクを使って行っている。真っ暗な中フィルムをリールに巻いて、指定された液温と手順を守って現像を進めていく。あらかじめ用意しておいた水や現像液をタンクの中に代わる代わる入れて、決まった時間攪拌するとネガフィルムができがあがる。

フィルムの現像は業者にお願いすることもできるが、自分で行った方が低コストであることや、好みの薬品を使って現像できることからぼくは自家現像することにしている。

現像中、退屈なのは薬品を入れて攪拌している時間だ。タンクに付属したプラスチックの棒みたいな部品をつまんでタンクの中の液体を混ぜなければならない。現像で約7分(30秒おきに攪拌)。定着で5分。水洗で5分。その間にも1分くらいの工程がちょこちょこある。1分くらいならまったく問題ないが、5分以上の工程はさすがに暇だ。音楽を聴いたり、ラジオを聴いたりして飽きないように工夫をするがキッチンタイマーのカウントダウンが早まることはない。

暇つぶしに最も効果的なのは読書。おもしろい本があれば5分などあっという間。英語の単語集とかの音読も時間が経つのが結構早い。

今回のフィルム現像中は「出来事と写真」(赤々舎)という本を読んでいた。写真家畠山直哉と文筆家の大竹昭子による対話集。畠山氏の深い知識と熟考に熟考を重ねた思考は読んでいてとてもおもしろい。すらすら読むというよりは、話に引き込まれてついあれこれ考えながら読んでしまう。そのせいか時間が経つのが本当に早い。

ふむふむと講義を聞くように本を読みながら液体を攪拌していると、キッチンタイマーのアラームが鳴った。反射的に本を閉じて次の工程に取り掛かろう…と思った瞬間、今自分がどの工程をやっていたのかがわからなくなった。今やっていたのは定着だったっけ?水洗だったっけ?つい本に夢中になってしまいミスをやらかすところだった。あまり熱中しすぎてしまう本というのも困りものだ。

作業を終えたネガをぶら下げて乾燥させる。なんとか今回も無事現像ができたみたいだ。通常はここで一安心しコンタクトシートを早く作りたいなーと思うのだが今回はその気持ちがなかった。

畠山本を読んだあとは、逆に自分のネガフィルムを見つめるのが微妙に辛い、という気持ちになった。自信がなくなるとか悲観的になるとかではなくて、気が緩んでいないか、考えることを続けているか、というようなことを問われている感じがしたからだと思う。「出来事と写真」は攪拌中の時間の流れを早めてくれるだけでなく、身が引き締まる思いをもたらしてくれるフィルム現像にはもってこいの一冊だった。

出来事と写真
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タイのナーン県に行ってみる

03 02, 2017
縁あってタイのナーン(NAN)県というところに行ってきた。タイの北部にある、ラオスと国境を接している場所だ。

ナーンは情報が少ない。ガイドブックを見てもわずか2ページ。ネットを調べるとぼちぼち情報は見つかったが、寺院など同じ場所の情報が多く町の雰囲気がよくわからなかった。地図やグーグルマップを見てもいまいちどんなところかイメージできない。結局そのまま出発の日が来た。

バンコクから国内線で1時間半、小さなナーン空港に降りる。整った空港内は閑散としていて離島に来たような気分。人口密度は高くない。TAXIと書かれたカウンターで声をかけると、10代とおぼしき男性が自家用車で市内の宿まで連れて行ってくれた。車のシートにはキティちゃんのカバーがかかっていた。

タイは今回が3回目。実はそんなに相性がよくない。タイ料理はおいしいけど毎日食べると胃腸が疲れてお腹が空かなくなる。バンコクの暑さと騒音も肌に合わない感じがしていた。でもナーンとは気が合った。

観光客はタイ人がほとんど。国内旅行で人気でリピーターが多いそう。外国人は少なくその中でも8割が欧米人。日本人の観光客はほとんどいないそうだ。チェンマイに溢れていた中国人の姿もなかった。

ホテルでサイズの合わない自転車を借りて市内を巡る。自転車の鍵は?聞くとナーンは安全だから要らないと言われる。高低差が少なく、自転車レーンが整備されているので移動は自転車が便利。市内地図の端から端までほとんど自転車で回れてしまう。タクシーは走っていない。

住宅地の道はきれいに掃除されている。清掃員がいるのではなく、住んでいる人たちがこまめに掃除をしている姿を見かけた。朝散歩していると様々な鳥の声とともにあたりからほうきの音が聞こえてきた。朝にはお坊さんの托鉢があるから、裸足で歩く僧侶のために道はきれいにしているのかなと思った。

2月という時期もあると思うけど日射しはあってもからりとしていて汗はあまりかかない。反対に朝晩は長袖がないと寒いくらい。早朝から路上で開かれている朝市で野菜を売っているおばちゃんたちは皆厚着している。

街を観光していると時々背後で「イープン?」「イープンよ」と会話しているのが聞こえてくる。イープンは日本のことだ。他の国に行くとたいがいチャイナかコリアかと言われるがなぜかナーンではイープンでしょと言われた。

新鮮だったのは言葉が通じないこと。外国だから当たり前だけど、かたことの英語も通じないことが多かった。ぼくも画伯はタイ語はわからない。英語が通じず、タイ語がわからず、筆談も成立しない。となるとジェスチャーと気持ちしかない。しかしそれでなんとかなった。冷たくあしらわれることもなく、お互いになんとか意思疎通をしようと試みる。その感じは久しぶりで新鮮だった。

英語の表記もあまり多くない。町には読めないタイ語ばかりが並んでいるがそれでいいと思う。ひとつの言語で表示がしていあるとすっきりして見える。意味はわからなくてときに困るけど見た目はいい。

町の人はどこか穏やかな印象だった。大きな声で話す人は少ない。タイのことをよく「微笑みの国」と言うけど、初めてそれを体感した。バンコクでもチェンマイでも感じなかったので、微笑みの国は一体どこにあるのか気になっていたがそれはナーンにあった。

値段をつりあげることもなく、キャッチセールスもない。学校帰りの子供たちは通り過ぎる時にこちらを向いて手を合わせ、あいさつをしてくる。こちらも慌てて手を合わせてあいさつする。絵を描いても写真を撮っていてもウロウロしていても特に何も言われない。普段の生活の中にいさせてくれて、そして放っておいてくれる。その中で小さな親切心というか、品のよさみたいなものが伝わって来る。

ある朝、早朝の市場を見学したあと道端の屋台で朝ごはんを食べることにした。古い折りたたみのテーブルの席で注文したものを待っていると、屋台の男性がおもむろにテーブルクロスをさっとかけてくれた。もう一つの席にはかかっていなかったので、多分遠いところから来たであろう外国人のためにおもてなしをしてくれたのだと思う。よく見るとそれはテーブルクロスではなく男性が防寒用に用意したストールだった。その心遣いに我々はすっかり心を奪われ、この旅行で一番豊かな朝食になった。

滞在しているとそうした出来事が少しずつ薄いクレープの皮のように一枚一枚積み重なっていく。そして街への好意がじわじわと濃くなっていく。数日前は情報がなくどんなところかまったくわからなかったのに、今ではすっかりまた来たい場所になってしまった。ナーンのよさはじわじわと時間をかけて浸透して来る種類のものだ。

前にとある居心地のよい喫茶店のオーナーに、居心地のよさはどこから来ているのかを訪ねたことがある。その人は店を作る時はまず店の人の働きやすさを50%、そしてお客さんの居心地のよさを50%で考えていると話していた。ナーンもそんな印象。住みやすいから観光もしやすい。バランスがいい。

いわゆる世界遺産のような有名な観光地はないけど(もちろん見所はあるし見応えもある)、だからその分こうしましょう、ここを見ましょうということがない。余白があるので自由に楽しむことができる。過度にわかりやすくしたり親切にしたりしないで、楽しみ方をある程度こちらに委ねてくる。そんな町にぼくは愛着を覚えるのかもしれない。
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Looking one thing, Thinking another thing

02 05, 2017
立春を過ぎる。今年は雨が少ないような。

普段メモ帳を持ち歩いている。何か気になることがあったらそのメモ帳にさっと記す。あれこれ書き残してはいるが書きっぱなしがほとんどであまり見返すことはない。だからたまに電車で移動するときなどに読むものがなくなった時、暇つぶしにメモ帳を振り返る。

“Some things are hard to explain.
Looking one thing, Thinking another thing”

一年前ほどの日付とともにそんな英文が書いてあった。どこで書いたのだろう?と調べたら西新宿のICCで見た「John WOOD and Paul HARRISON: Some Things Are Hard to Explain(説明にしにくいこともある)」という展示のときだった。展示内容はよく覚えているのに、メモを取ったことはすっかり忘れていた。改めてその英文を読んでみると、いい一文に思えた。

あるものを見ながら、別のことを考える。その感覚にどこか共感を覚える。何かをぼんやりと見ているときの感じだ。目の前にあるものを観察するということではなく、見るともなく見る。見ながら何かを思い出したり、考えたりする。そのときの感じだ。

そうえいば以前フィンランドを訪れた時、とある公園のベンチに若い男性が座っていた。その人は身動きひとつせず、ただ目の前をぼんやりと見つめていた。フィンランド政府観光局によると、フィンランド人は沈黙を好むという。何も言わず、何もしない。ただそこで太陽の光を見て何時間もたたずむ。そのような時間を大切にするという。あの男性はその情報通りの人だったのかもしれない。そんな風景をフィンランド滞在中何度か見かけた。

思えば自分が好きになる物や作品はそんな感じでぼんやり見ていることができるものが多い。ICCの展示も一見よくわからないがなんとなく見ていることができる大量の映像が延々と流れていた。いつ始まり、いつ終わるのか。それすらもはっきりしないあいまいさがあって気がつけば長い時間そこで映像を見続けた。周囲を見渡すと、あのフィンランドの男性のように椅子に腰掛け、ぼんやりと映像を見ている人たちの姿が多くあった。

Looking one thing, Thinking another thing.そんな雰囲気を自分の写真にも漂わせることができたらいいなと思う。
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フィルムとX線検査12 マレーシア2016

01 28, 2017
インフルエンザが流行っているらしい。去年かかったので今年はもらいたくないです。

2016年12月、モノクロフィルムを持ってマレーシアに行ってきた。持って行ったフィルムは「Tri-X」。滞在期間は一週間で20本用意した。

事前の準備はいつものとおり。
【準備】
・フィルムは必ず機内持ち込みする
・フィルムは紙箱からすべて出し、フィルムケースに入れたまま透明のジップロックに入れる
・できればカメラ本体にはフィルムは入れないでおく
・手荷物検査で機械に通す前に「フィルムです、ハンドチェックお願いします」と検査官に伝える
 英語では"This is camera film, Hand check please"と伝えている
・機内持ち込みする荷物とは別にフィルムを入れるバッグも用意しておくと便利
 (ぼくは布のトートバッグを用意)

結果から言うと、行き帰りともハンドチェックをしてくれた。現像の結果も良好。今回は乗り換えがないので行きと帰りの2回だけ。なんて楽なんだ。

【行き】羽田空港
安定の羽田空港、フィルムの入った袋を見せるとすばやくセキュリティゲートの横を通し、ハンドチェックをしてくれた。今回もフィルムケースを一つ一つ開けてチェックしている。いつ行っても、どの人でも同じようにチェックをしてくれる。管理が行き届いている感じがして実に安心だ。

【帰り】クアラルンプール国際空港
旅行した時期は12月のホリデーシーズンだった。そのせいで空港が混雑するという情報を事前に人から教わっていたので念のため早めに空港に行く。出発の3時間半前に着くと出発ロビーは人で溢れかえっていた。空港にはテロ対策のためか、ずいぶんとごつい銃(サブマシンガンというのかな)を持った警官が警備にあたっていた。あまり人が多い場所に長時間いたくないのでさっさと出国することにする。

手荷物検査場でフィルムの入った袋を検査官に見せる。さきほどの警備の様子からチェックが厳しくなっているかもしれない…そう思うと身が引き締まる。慎重にゲートの近くに立つ男性にフィルムの入った袋を手渡す。すると男性検査官はおもむろに袋をガシャガシャと振り、OK!とチェックを完了した。なんてカジュアルなんだ。さらに袋をぼくに手渡しながら肩をポンと叩き、「こんなにフィルムを持っているとは...きみはプロフェッショナルフォトグラファーだな?」と言ってニヤリと笑った。出発ロビーのマシンガンと、この検査官の温度差。マレーシアはすばらしいと思った。

【結果】
帰国後、年末年始の間にフィルムを現像する。結果すべてのフィルムに異常なし。マレーシアはフィルムに優しい国だった。チャイナタウンのカメラ屋にはフィルムの中古カメラが売っていたし。

1週間の滞在で使ったフィルムは20本。1日平均約3本。いつもは2本がせいぜいなのでマレーシアは効率がよかった。1日あたりに使ったフィルムの数は、自分が滞在中にどれくらい楽しんでいたかを示す指標のひとつだ。


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プロフィール

泉大悟 (Daigo IZUMI)

Author:泉大悟 (Daigo IZUMI)
モノクロ写真が好きです。

「恍然大悟(コウゼンタイゴ)」は中国の成語で「ハッと悟る」という意味。

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http://www.dizumi.com/

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