仲介者になる

08 15, 2017
今年の夏は思いがけず涼しい。エアコンが壊れている我が暗室に優しい夏。

小さな印画紙の切れ端を見ていると、撮影したときのことを思い出す。前後にあったことやその場所の記憶、カメラの露出なんかも結構思い出すことができる。正確ではないと思うけど。

ちょっとした道の一部、軒先に置いてある椅子、窓ガラスに重なって映る外と室内の風景。写真を撮っていなかったらこうした街の中に存在する、ごくごく小さな部分を今ほど目にしていないと思う。見逃す、見落とす、のではなくそもそも存在に気がつかない。見えない。

ぼくは写真を撮るとき、「光」「対象」「カメラ」という三者のバランスをとる人になる。三者の作る三角形の真ん中に立ち、それぞれが主張する要求を聞き、取りまとめ、それぞれが納得する落としどころを提案する仲介者になるようなイメージ。写真術を支配下に置き、従わせて撮るということではない。

三者それぞれの主張が絶妙な塩梅で混じりあい、ぼくもある程度よい提案をすることができたとき、想像を少しだけ超えた写真ができあがるような予感を覚える。そういう時は一人静かに興奮し、写真やっててよかったなーと嬉しい気持ちになる。一つでもどれかの主張が強いとバランスが崩れ、いまいちな写真になることが多いことが近年判明しつつある。

「光」「対象」「カメラ」のお三方の力を借りて世の中を見ると、自身では気づかないものが見えてきて面白い。写真を構成する要素に自分が従属し、奉仕することの対価として思いがけないものを見せてもらえる。そのためには光や対象との出会いを求めて歩く体力が求められるし、カメラが壊れたり盗まれたりしないよう注意することも求められるが、それくらいならお安い御用だ。

仲介者になる。写真をやっていて面白いと思うことのひとつ。


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期限切れのXTOL

07 28, 2017
最高気温28℃。夏の涼しい日は暗室日和。

前に知人から譲ってもらったコダックの現像液、「XTOL(エクストール)」を作ってみた。期限は2年ほど切れていたが粉はまだ固まっていないので普通に使えるだろうと予想していた。

いつもどおり4Lの水をバケツに用意して二種類の粉を順々に入れる。「A」と書かれた袋の中身を入れると水に色が着く。よーく攪拌した後「B」の袋を入れると色の着いた水が魔法のようにスーッと透明に変わる。ぼくはこの瞬間が結構好きだ。

が、スーッと色は変わったのだが微妙に色が残っている。どこか黄色っぽいような。水を足し5Lにして一応できあがり。改めて透明のビーカーに移してみるとやはり黄色く見える。蛍光灯のせいか?と思ったがはてどうだろう。これまで散々作ってきたエクストールの色だ。この色は何かおかしい。

「…これは…使っては…なりません…」
そんな天からのお告げのような声が頭の奥のほうから聞こえてくる。気がする。

現像液は劣化すると黄色っぽくなる。過去に印画紙用の現像液で経験したことだ。もちろん使ってみないと本当に劣化しているかはわからないが、犠牲になるフィルムはあいにくないし、その作業も面倒。

フィルムの現像は一度失敗したら取り返しがつかない。少しでもおかしいと思ったらその危険性は全力で排除する。そのルールに従い、作ったばかりの5Lの黄色っぽいエクストールはそのまま廃棄されることになった。使用期限があるものはやはり期限内に使うことが大切。当たり前の教訓だがまたひとつささやかな経験を積むことができた。

未現像のフィルムは我が暗室の中でかなり位が高い。「未現像フィルム様」と呼ぶべき存在だ。未現像フィルム様には最上の快適な環境を与えなければならない。事前準備然り。現像液の液温然り。いつも「お湯加減はいかがでしょうか」と常に確認しながら現像は行われる。期限切れのエクストールを用いるなんてもってのほかなのだ。


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テストピース

07 07, 2017
暗室にあるテストピースが増えてきた。

テストピースは、その名のとおりプリントのテストに使う小さな印画紙。テスト用なので印画紙をはさみや手で小さくちぎって使う。それを一応乾燥させてとっておくようにしたらいつの間にか随分と溜まってしまった。

いい加減そろそろ処分しなければと思ったがゴミと一緒になって処分されてしまうことを想像するとどうにも寂しい。これらのテストピースがあったおかげで、本番を順調にプリントすることができたのだ。ということですべてとはいかずとも、状態のよさそうなものは残しておくようにしていた。

この前プラハに行った時、古書店をのぞくとレジ近くに古い写真やポストカードがどっさり置かれていた。ポストカードと言ってもそれは印画紙にプリントされた写真であって、その裏に住所やメッセージを書かれていた。

もちろん何が書いてあることはわからない。お誕生日おめでとうとか、引っ越しましたとか、あなたが好きですとか書いてあるのかもしれない。

こうした持ち主不明の写真やポストカードは本来もうゴミとして処分されてしまっていてもおかしくないものだ。捨てられて、燃やされて、灰になって、この世から消えていてもおかしくないものが集まっている。そしてそれを見ながらどっかから来た東洋人が喜んでいる。

自分の写真もいつかこうした古書店のレジの横の棚に無造作に放り込まれていたら面白いなと思った。それをどこかの誰かが気に入ってくれたりするのだろうか。生まれた年も国もまるで違うどこかの誰か。

そんな出来事があって、古本屋を習ってぼくもテストピースを並べてみることにした。手のひらサイズの小さな写真を絵の具の跡が残る厚紙の上に置いてみると、束になっているときより生き生きとして見えた。

こちらのInstagramにアップしています。よろしければご覧ください。
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プラハは懐かしい

07 04, 2017
近頃朝方雨が降る。

プラハから戻って一週間ほど時差ぼけがなおらなかった。年々時差ぼけが治りにくくなっているような。

帰国後ヨゼフ・スデクの写真集を見ていたら、プラハ城とかカレル橋といったいわゆる有名どころ以外でも撮影している場所がはっきりとわかる写真がいくつかあった。ともにすごく気に入った場所で、写真を撮ったり画伯がスケッチしたりしていたからそのページを開いた瞬間、思わずおお〜!と声をあげてしまった。

スデクの写真を見る限り、ぼくたちが見た風景は当時(1950年代)とほとんど変わっていない。スデクがそこにいて、大きなカメラを立てて撮影していたかと思うと胸が熱くなる。我ながらなかなかいいところに目をつけたものだ。

こうした70年近くほとんど変わっていない場所が普通に残っていて、そこに人が暮らしているのは羨ましいなーと思う。ぼくが暮らしているところや生まれ育った町の風景は常に変わり続けている。日本は気候や災害、地理的な問題もあって長く建物を残すのは難しいと聞く。ただ建て替えるのが悪いのではなくて、新しくした時に過去の痕跡を根こそぎ取り払って時間的なつながりをぶちっと切り離してしまうような街づくりをしているように見えるのが気になる。

それはどこか記憶が消されるような感じがして時に心が痛む。知っている場所なのに懐かしくない。生まれ育った場所なのに懐かしくない。もうここは君が戻る場所ではないので悪しからず、と冷たくあしらわれているかのようだ。プラハはその変わらなさに驚いたが、日本はその変わりように驚く。

時に町を歩いていると無性に風景が懐かしく感じることがあって、来たこともない場所なのに不思議だった。多分すり減った石段や、昔から補修して色を塗り重ねて使い続けているであろう壁なんかがそこら中にあるので、そういうところに安心感を覚えたのかもしれない。

お城まで続く細い石畳の坂道と、遠くから聞こえてくる教会の鐘を聞いてどっかの日本人が懐かしい気持ちになっていたなんて現地の人にはわからないだろう。東洋人が何を言ってやがると思うかもしれない。画伯はアジアが落ち着く(米が大好きだから)というけど、ぼくはどうもヨーロッパのほうが性に合うみたいだ。パンとイモ大好き。


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窓越しの旧市街広場
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フィルムとX線検査13 北京2017

06 23, 2017
2017年5月、モノクロフィルムを持って北京に行ってきた。
持って行ったフィルムは「Tri-X」。滞在期間は6日間で12本を用意。

事前の準備はいつものとおり。
【準備】
・フィルムは必ず機内持ち込みする
・フィルムは紙箱からすべて出し、フィルムケースに入れたまま透明のジップロックに入れる
・できればカメラ本体にはフィルムは入れないでおく
・手荷物検査で機械に通す前に「フィルムです、ハンドチェックお願いします」と検査官に伝える
 英語では"This is camera film, Could you hand check please?”などと伝えている
・機内持ち込みする荷物とは別にフィルムを入れるバッグも用意しておくと便利
 (ぼくは布のトートバッグを用意)

結果から言うと、行き帰りともハンドチェックをしてくれた。
現像の結果も問題なし。詳細はこんな感じだった。

【行き】羽田空港
羽田空港はもうパーフェクトという言葉でしか言い表すことはできない。どの検査官でも必ずチェックに対応してくれる。しかもフィルムの入ったジップロックを見た瞬間、あフィルムですね、こちらへどうぞーみたいな感じでX線の機械の横を通してハンドチェックに進んでくれる。親切丁寧。いつまでもすばらしい羽田空港でいてください、と願わずにいられない。

【帰り】北京首都国際空港
正直期待していなかった。中国だけに絶対お役所仕事で「不可以(だめ)」「不行(むり)」とか冷たくあしらわれるだろうなーと。しかし予想に反して北京はハンドチェックに応じてくれた。

しかもこちらが「あのーもし可能でしたらー」とフィルムの入ったジップロックを見せた瞬間に「ああ、フィルムね。OK言いたいことはわかるわ」と女性検査官はチェックを受け入れてくれた。

どうしたんだ中国。もっと殺伐とした理不尽な対応を期待…はしていないが想像していたというのに一体どうしたんだ。まるで別人だ。しかも女性検査官、ジップロックにフィルムを入れていたのがよかったのか「他不錯」とちょっと褒めるようなことを言っている。

この場合の「他不錯」は「他(準備得)不錯」の意味だろう。「彼、準備がいいわ」、ということだ。言葉のまま「他不錯(彼、いいわ)」と訳し受け取ってしまうと変な方向の意味になってしまいかねないので注意が必要だ。

ただしボディチェックは相当厳しかった。お立ち台みたいなところに立たされ、全身をくまなくチェックされる。みんなそうみたい。ぼくと画伯は早々にチェックを終えて出国できたのだが、同行したバッチさん(バッチを作っているのでそう呼んでいる。今回は彼女の仕入れに同行した)はなかなか出てこない。羽田でもそうだったが、いつもチェックに引っかかるらしい。見た目が不審なのだろうか。

【結果】
帰国後、フィルムを現像する。結果すべてのフィルムに異常なし。北京は意外にもフィルムに優しい場所だった。例の強烈な大気汚染がなくなれば近いしもう少し身近な場所になるのだけどな。惜しいな。


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泉大悟 (Daigo IZUMI)

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