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8月の暗室

生物学者のS氏がつぶやいていたのが面白かった。

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「科学者って、毎日が夏休みみたいでいいですね」とたまに言われるが、僕たちの毎日は「8月31日が何度も繰り返される夏休み」であることを、彼らはまだ知らない。
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8月はよく暗室でプリントをしていた。大四切で約100枚ほどのプリントを作る。

一日の作業時間は4~5時間。丸一日篭ったりはしない。プリントするコマを決めて、枚数を決めて、事務的に作業をする。勢いにまかせてワーッと大量にプリントをしてもあまりいいことはない。翌日になってミスに気づいてやり直し、というようなことが過去にあったので、調子がよくても悪くても決めた枚数だけプリントするようになった。長い目で見るとそのほうが効率がいい。集中力も続かないし。

ある日、冬場より作業の効率がいいことに気づいた。ネガに埃がつきにくいのだ。いつもだったらネガについた埃を探したり、取り除いたりするのに結構時間がかかるのだがその時間がやけに短い。さっとセットしてさっとチェックしてプリントに入る、という具合だ。

これは多分高い湿度のおかげだろう。冬に比べて埃が舞いにくいのかもしれない。

冬場、定着を終えたプリントの上にある埃を発見してはがっくりしていた。ごくごく小さな糸くずでも、引き伸ばして拡大されるとすごく目立つ。散々ルーペで確認して、肉眼で確認して、何度も埃が付着していないかチェックしてようやくプリントしたものにひょろっとした糸くずがついていることに気づいたときのやるせなさといったら…。思わず毒づいてしまうものだ。この糸クズ野郎!と。

その憎き埃が、糸くずが舞いにくいのであれば、気温36℃湿度60%の暑い夏も悪いものではないように思えてくる。暑い?いやいや夏はそもそも暑いものです。液温が高くならないよう気をつけなければいけない?埃がつかないのであれば喜んでお冷やしいたします。保冷剤の準備は万全です。

猛暑に忠誠を誓ったおかげか、冬場にプリントするよりも確実に印画紙の「埃ロス」が少なかった。一日にプリントする枚数を決めているから、ロスが少なければその分作業日数も減る。実際予定していた日数よりも一日早くプリントを終えることができた。ナイス高温多湿!

プリントを半分終えた頃、実家に帰省した。電車で約二時間かけて帰る。会社勤めをしていた頃は毎日この時間を通勤していたかと思うと信じられない。東京西部は都内より少し涼しい。水道から出る水が少し冷たい。夕暮れ時にはヒグラシが鳴く。今住んでいるところと少し違う。夜、甥と遊ぶ。花火とスイカ、アイス。今年の夏で夏らしい日はこの日ぐらいだった。

プロフィール

Author:泉大悟 Daigo IZUMI
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http://www.dizumi.com/
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