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床面投影

朝方は肌寒く感じる。

近頃画伯の台湾本の制作に取り組んでいる。ぼくは絵を描く以外の作業、写真や資料を作ったり、ということをしている。撮影で出かけた日以外、このところほとんど家と近所で過ごしているような。本の詳細や発売日が決まったら改めてお知らせします。

そんなある日、近所で写真を撮っているとき、ふと大きく引き伸ばしをしてみたくなった。大きいプリントを作ってみたい、ということではなくて、大きく引き伸してみたいということ。

ぼくは今2台の引き伸ばし機を使っていて、一台はフォコマート2C、もう一台は友人Sさんから譲り受けたラッキーの90M-Sだ。ワークプリントやベタは90M-S、バライタは2Cというように使い分けをしている。

90M-Sの説明書を見ると床面投影ができると書いてあったので実験をしてみることにした。ヘッドのついた支柱をくるりと後ろに回すことで床に向けて投影できるようになる。ただしヘッドが後ろ向きになることでバランスが崩れるので、台板部分には何か物を置いておかないと引き伸ばし機が倒れてしまう。

さっそく印画紙の箱を数箱どさっと台板の上に置き、ヘッドの向きを変えてみた。次にヘッドの部分を最大の高さまで持ち上げる。ちょっとぐらぐらして危なっかしい。ネガキャリアの位置がざっと180cmくらいになった。なんかわくわくする。

一枚ネガをセットして、床に投影してみる。暗い部屋の足下に大きなぼやけた光が照らされる。ヘッドが高い位置にあるのでピント合わせが難しい。なんとかピントを合わせて、改めてそのサイズを見てみると、おお大きいではないか!定規で測ってみると長辺が1mちょっとあった。ネガのサイズは24mm×36mmだから、ざっと30倍くらいの大きさに引き伸されている。切手よりちょっと大きいくらいの画像がマットみたいなサイズになるなんて。すごいぞ90M-S。

8x10の印画紙にプリントをしてみるとほんの一部しかプリントされない。しかもざらざらとした粒子がよく見える。なんかこれはこれでいい雰囲気だなと思った。

しかしヘッドの位置と天井の位置はもう少し余裕がある。これは...限界まで行けということか?引き伸ばし機の下に箱を置いて高さを調節し、ヘッドを天井ぎりぎりの位置まで持ち上げてみる。遠目から見るとその高さはすごく無茶をしているように見えた。椅子に乗らないともうネガの交換もできない。使いにくいことこの上ない。

一枚プリントをしてみると、粒子はさらに荒れていた。なんか超えてはいけない一線を越えてしまった感じがして、さっきはいい雰囲気に思えた物がただの荒れたプリントにしか見えなくなった。

しかも何枚かプリントしてみると、数枚のプリントはピントが外れているようだった。ピントは合っているのにどうしたんだ?と思ったら露光中にヘッドがぐらぐらと揺れてしまっていた。幹線道路の近くにあるぼくの暗室は、大型のトラックが通ると揺れるのだ。よく見るとその振動に合わせてヘッドがカタカタ小刻みに揺れているではないか。危ない、この高さは危ない。すぐさまさっきの高さに戻してそこを限界と定めることにした。昔のプリント指南書に出ていた写真家の暗室紹介で、地面が揺れない場所を選んで大型の引き伸ばし機を設置している、というようなことが書いてあったけどそういう意味だったのか。

ともあれなかなかいい実験だった。何気なく撮った風景の小さなネガの中に、肉眼で見たときやファインダーを覗いたときには見えていなかった様々な物が写っていた。改めて機械の目はすごいと感じた。また普段のプリントサイズでは気づかない、銀の粒子が作る画像の細部をじっくり見つめるという行為は結構快感だった。

プロフィール

Author:泉大悟 Daigo IZUMI
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