恍然大悟

写真家渡部さとるさんのワークショップ2Bに参加したときのことについて

Posted by 泉大悟/Daigo IZUMI on  

W氏が行っている写真ワークショップの募集が始まっています。ぼくは2009年に参加し、そのときは第29期でした。毎年着々と回数を重ね、すでに50期を過ぎました。ひとつの期に10人としても約500人。すごい数になってきました。

以下数年前の話ではありますが、ぼくが参加したときのことと、その後アシスタントをしながら見てきたことを紹介してみたいと思います(少し長いです)。

1.「ワークショップ2B」について
「ワークショップ2B」は写真家の渡部さとるさんが主宰する写真のワークショップです。2003年6月に始まりました。場所は東京の江古田で行われています。駅からほど近い雑居ビルの2階B室で行われているので「2B」。「にビー」と読んでいました。「ツービー」とは言わなかった。ちなみに英語だと"2B Workshop"と表記されるそうです。

参加者は様々な人がいて、ぼくのように写真を学び始めたばかりの右も左もわからない人もいれば、カメラマンやレタッチャーとして商業的な仕事をしている人もいましたし、作品を作って展示をしたり、写真集を作ったり海外のフォトフェスティバルに参加したりする人もいました。「2B」は写真を学ぶということを目的に、様々な人達が緩やかにつながり、交流をする場所でした。その中心に渡部氏がいて、渡部氏が授業を行いながら自身も一人の写真家として参加者と共に写真を学ぶ、という姿勢をとっていました。

ワークショップとは
"一方通行的な知や技術の伝達でなく、参加者が自ら参加・体験し、グループの相互作用の中で何かを学びあったり創り出したりする、双方向的な学びと創造のスタイル"


2.授業内容
授業は毎週末に行われます。週に一回、約3ヶ月ほどかけて写真を学ぶことができます。座学の日は座学、撮影の日は撮影、暗室の日は暗室、という具合にその日にやることはひとつだけでした。学んだら→撮って→プリントして→また学んで、というように各授業がつながっている感じです。

内容は振り返ってみると「学ぶ」「撮る」「見る」「見せる」という4項目に分かれていました。


(1)学ぶ
a)原理原則
「写真の撮り方」ではなくて、「写真の原理原則」を学びました。これがぼくはとても楽しかった。写真のルール、原理原則を学ぶと色々なことが理解しやすくなりました。

例えば
・写真はどうやって写るのか
・カメラの仕組みはどうなっているのか
・見た物がそのまま写らないのはなぜか
・どうやって露出を決めるのか

などなど原理原則について簡単な言葉で繰り返し説明をしてくれました。時には図や絵や例えを使ってわかりやすく伝えてくれます。露出?絞り?何それ?な状態で行っても大丈夫ではありますが、事前にちょっとでも本などで学んでおくと効率がよいかと思います。


b)歴史
写真の歴史、写真家の歴史、カメラの歴史、アートの歴史など、いくつかの種類の歴史をまたぎながら現代にいたるまでの写真の流れを話してくれました。写真集を見ながら変わっていく写真の世界を見ていくのは興味深いものでした。発明から現在にいたるまでの時間の流れとともに、写真の世界の地図が広がっていく様子が伝わってくる内容でした。


c)機材に関する知識
カメラ、レンズ、フィルム、暗室の設備、プリンター。デジタルにしろアナログにしろ、写真を始めるときには色々な物が必要になりますが、2Bには一通りの道具が集まっているので、授業で使ったり、借りたり貸したりしながら自分に必要な物を考えることができました。カメラ好きの参加者も多かったので、カメラやその他機材を選ぶときはたくさんのアドバイスをもらうことができました。高価なカメラとレンズをほいっと貸してもらって気軽に使うことができなかったということもありましたが。


(2)撮る
a)撮る
学んだことを試してみる撮影です。モノクロフィルムを使って露出のルールを試します。フィルムはデジタルに比べできることが限られてくるので基礎を学ぶにはいいようです。フィルムという今ではあまり使われなくなったメディアを用いて写真を撮る、という体験は新鮮でした。フィルムカメラは貸してもらえるので持っていなくても大丈夫です。

露出計やカメラのプログラムを使わないで、露出からピント合わせまですべてマニュアルで撮るのはなかなか難しく感じましたが、原理原則に従って撮るとちゃんと写りました。原理原則を忘れるとちゃんと写りませんでした。


b)プリントする
撮ったフィルムは翌週までに現像をしてくれて、それを使って暗室でプリントします。暗室での作業も原理原則があるのでそれに従って作業します。ぼくは生まれて初めてモノクロ写真のプリントをしました。手順通り行うとモノクロの写真が普通にできあがりました。手順を忘れると真っ黒な写真ややけに薄い写真ができあがりました。

原理原則に従って撮り、原理原則に従ってプリントするという、その事務作業のような流れを経て、写真ができあがるということが随分と印象に残りました。渡部氏の作品もその授業で使う暗室で作られていて、作業工程は基本的に授業と同じ、というのも印象的でした。

写真家の人が作品を作るのと同じ場所で、同じ工程を体験したことで、「写真家はなんだかよくわからないものすごいカメラやものすごい設備を使っているのだろう」「暗室では魔法や秘技が駆使されているのだろう」といった誤解が解かれていくようでした。実際想像を絶するようなものすごい設備や特殊な技術で作品を作る方もいるのですが、やっていることの基本は同じということが理解できました。


(3)見る
2Bにはたくさんの古今東西の写真集が壁一面にあって好きなように見ることができます。原理原則を学んだり、歴史を知ったり、解説をしてもらうことで写真集を見るのがおもしろくなりました。また購入した様々な写真家のオリジナルプリントを生で見ることができるのもいい経験でした。写真を保管する専用の箱から慎重に取り出された一枚のプリントはとても美しく見えました。それを間近で、本当に紙の匂いが嗅げるくらい顔を慎重に近づけて見ることができたのはいい経験でした。写真は一枚の紙でできた物質である、ということを実感し、それがやけに魅力的に見えました。

また不定期ではありますが、写真家の方を招いて作品を見せていただく「ビューイング」というイベントも行われています。間近でプリントを見ながら本人の解説を聞けるというのはとても勉強になりました。

(4)見せる
人に写真を見せるまでの一連の流れを学びます。一年に二回グループ展が行われるので、それにあわせて用意をします。参加は必須ではありませんが、なぜか受講者のほぼ全員が毎回参加しています。ぼく自身も最初は展示なんて恥ずかしいと思っていたのですが、授業を受けるうちにやってみようかなと思えてきました。

製作にあたっては、学んだことをベースに、写真を撮り、プリントし、セレクトして、ということを繰り返し行って作品を作っていきました。何を撮ったらいいのか、どう撮ったらいいのか、どの機材を使うといいのか。自分でできる人は独力で、できない人は相談しながらぼちぼち進んでいきました。多くの人は平日仕事をして、週末撮影とプリントをしていました。展示期間は約一週間。色々と忘れがたいことが起きる一週間でした。


3.参加してみて
渡部氏は自身のことを「写真の山の入り口までつれてくるガイド」だと言います。終了後は、あまりのめり込みすぎず、各自好きなペースでぼちぼちと長く写真と関わっていって下さい、というスタンスでした。写真の山に登るもよし、山を眺めるもよし、違うガイドを探すもよし、山グッズに懲るもよし。

というような感じで授業3ヶ月+グループ展が終わった結果、何かが変わるか?と言えば、人それぞれなのでなんとも言えません。ただひとつ言えるのは、写真の原理原則を教わると、別のワークショップや写真教室に行ったときに、教わることの理解が早くなると思います。言語学習で例えると、基礎単語と基礎文法のコツを短期間で効率よく学ぶイメージが近い気がします。また写真への理解が深まることで、より写真が好きになるという変化は多少なりとも起きることかと思います。

以上個人的な感想ですが、何かの参考になれば幸いです。

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2Bに関する詳しいことは以下のサイトをご覧下さい。

ワークショップ2Bについて渡部氏のコメント
http://d.hatena.ne.jp/satorw/20150410/1428628108

<2018年10月追記>
ワークショップ2Bは2018年より「写真ワークショップH(エイチ)」に変更となりました。カリキュラムも変更されていますが写真の基礎を学ぶという点は変わりありません。詳しくはこちらをご覧ください。
https://workshop2bn.themedia.jp/


<2020年3月追記>
渡部氏の新刊「じゃない写真」が発売されました。


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