記事一覧

レイコック村を歩く

雨が続く。梅雨らしい天気。

イギリス旅行中、コッツウォルズ地方にあるLacock(レイコック、ラコックとも)という村に行ってきた。コッツウォルズ地方はロンドンから西に約200㎞ほどの場所にある丘陵地帯で、昔ながらの牧歌的な風景が広がる場所だ。

レイコック村のことはタルボットのことを調べているときに知った。ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボット。カロタイプという初期の写真術を発明した人だ。そのタルボットのミュージアムがレイコック村にあるというのだ。ウェブサイトには建物や村の様子が紹介されていて、それを見た途端なぜだかとても行きたくなってしまった。イギリス旅行に行くなら絶対この村に行く、と心に決めていた。

ロンドンからは長距離バスで行くことにした。ヴィクトリア・コーチステーションからバスに揺られて約二時間。チッペナムという少し栄えた町に到着。そこから路線バスに乗り換えついに念願のレイコック村にやってきた。

この村にタルボットが住んでいたレイコック・アビー(修道院)がある...!はやる気持ちを抑えつつ、今日のところは村の中を歩いて見ることにした。

レイコックは、とても小さい。街中は歩けば15分くらいで回れてしまうサイズだ。普通はレンタカーやツアーで来て、ぐるりと観光して次の村へ、という人が多いかと思う。でもぼくにとっては今回の旅行のハイライトとも言える場所なのでレイコックには2泊することにした。

雨がパラパラと降る中、ぼちぼち歩く。傘はささない。ロンドンより少し冷える。パブが三軒、小学校、雑貨屋、ベーカリー。郵便局は閉まっていた。歩く人もまばらなこじんまりとした静かな村だ。観光地ではあるけれど、出店やのぼりや看板ややかましい音楽が流れている、ということはない。

レイコックは昔の街並みがそのまま残っている。建物はすべて18世紀以前に建てられたもの。村全体がナショナルトラスト(歴史的建築物の保護を目的として設立されたボランティア団体)によって管理されている。

翌日、レイコック・アビーの見学に向かう。入り口の建物の中にタルボットミュージアムがあり、そこから歩道を通って奥へ行くと柵の向こうにレイコック・アビーが見えてきた。その姿を目にしたとき、ついにやってきた!という気持ちがむくむくと湧いてきた。

柵の中には草原が広がっていて、朝露を含んだ草がときおり射しこむ日射しにキラキラと反射しながら風に揺れている。なんでこんなに惹かれるのか、正直よくわからない。見たこともないものを見て感動する、というのではなく懐かしさに近いものを感じた。

ミュージアムにあるタルボットの写真制作のプロセスを見ると、今ぼくが暗室で行っている作業とほとんど同じだった。タルボットがここ英国レイコック・アビーで家族や友人とともに暮らし、考え、実験し、発明した技術を約175年後の日本で行っている。国や時代が離れていても、写真術という科学的な技術でレイコック・アビーとぼくの暗室はつながっていると感じた。

修道院の中にはタルボット一家が暮らしていた部屋が残されている。そこには当時の暮らしの様子がところどころに書かれていた。それによると...

--

・タルボットのカメラは「Mouse Trap(ネズミ捕り)」とタルボット婦人に呼ばれていた。

・家族や友人はタルボットのことを「ヘンリー」と呼んでいた。

・屋敷にいるときは研究か、家族と過ごすかのどちらかだった。

・朝食はスライスした牛たん、ハム、目玉焼き、フルーツ、それにパン。現代とそんなに変わっていない。

・夜遅くまで様々な研究をした。夜研究するための部屋があった。タルボット婦人の眠りを妨げないために別に部屋を作ったらしい。

・タルボット婦人は料理教室を開いていた。

・タルボットの娘二人は絵が上手だった。風景画がいくつか飾ってあった。父タルボットは絵がうまく描けず、それがきっかけで写真術を発明した。

--

どうもタルボットは家族思いの人だったように思える。家の中を歩いていると仲睦まじい家族の風景が見えてきそうだった。写真史に必ず名前が出てくる人が随分身近に感じられた。

レイコック・アビーを去る時、ミュージアムショップでタルボットの肖像画のポストカードが売っていたので数枚購入する。それを使って手紙を書き、レイコック村のポストに投函した。一枚はそのまま持ち帰り、暗室の壁に貼付けた。



lacock.jpg
小さな丘の上から見たレイコック村。


lacockabbey.jpg
タルボット邸、レイコック・アビー。


talbot03.jpg
タルボットの机。"マウストラップ"が置いてある。



footpath.jpg
早朝のフットパス。



chippenham.jpg
チッペナムのバス停。バスはここからレイコック村へ向かう。本数は少ない。

プロフィール

Author:Daigo IZUMI /泉大悟
Photographer.

Website
http://www.dizumi.com/
Instagram
izumi_daigo/

ブログ内検索

月別アーカイブ