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36℃の暗室でプリントする

暑い日が続く。天気予報は37℃。外壁工事の人たちがぐったりしている。18-30℃くらいの夏なら歓迎なのだけど、27-37℃とかいう類の夏ならもう終わってもいい。

バライタでのプリントが少々あったので、気を引き締めて暗室にこもった。あとロンドンで撮影した写真のワークプリントをする。

暗い部屋に入るとむわっと暑い。汗がとたんに吹き出してくる。温度計を見ると39℃と出ている。これはいったい...?

古い部屋を改装して作ったぼくの暗室には古いエアコンがついている。前にこの部屋を使っていた人が残していったものだ。製造年が98年とあるからもう17年前のものか。リモコンはなく、動かすときは緊急時の予備のスイッチを押している。

温度設定はわからないが、これまでは普通に冷たい空気がぶわーっと出てすぐに室内は快適な温度になったのだが、今年はどうしたことか冷たい空気がほとんど出てこない。かすかに涼しいような気もするが、室温はなかなか下がらない。フィルターの清掃をしてみたり、しばらくつけっぱなしにしてみたりしたが改善の兆しは見られない。温度計は少しだけ下がって36℃といったところだ。

とりあえず汗をジワジワダラダラとかきながらフィルムの現像にとりかかる。フィルム現像なら室温が高くてもなんとかできる。問題はプリントだ。

現像液や定着液は液温が上がり過ぎないよう気をつけなければいけない。冬はすぐに20℃を切ってしまって保温するのに苦労したが、36℃の部屋では液温はみるみるうちに上がっていってしまうだろう。

どうしても数枚のプリントはしなければいけないので、仕方なく大きな保冷剤をバットの下に置いて冷やしながらプリントすることにする。液温が上る前にプリントを終えるのだ。速やかに、正確に、的確に無駄なく動けばできるはず!

と頭ではわかっているのだが、なにせ部屋の中が暑い。36℃の密室。テーブルを触ると生温い。流しも容器もみんな生温い。小さな扇風機は温い部屋をかき回しているだけ。エアコンの風もまた微妙にヌルい。集中力がどうにも上がらない。頭がクラクラしてくる。

それでも、ぼくは、プリントを、しなければならない。

自らに強く言い聞かせながら極力冷静に作業をする。冷蔵庫に用意しておいた冷水を使い、20℃ほどの現像液と停止液、定着液を用意する。バットの下には保冷剤がキンキンに冷えている。ご機嫌だ。ちょっと不安定だけどなんとかなるだろう。

一枚二枚と順調にプリントしていく。ふと次の工程である定着液に目をやるとバットが微妙に傾き定着液がこぼれそうになっているではないか。保冷剤で不安定になっていたせいだ、濡れたタオルで高さを調整し、事なきを得る。

部屋の温度計を見ると37℃になっている。なんで暑くなってるんだ。エアコンは何しているんだ。体は汗でびっしょり。バットに向かってチャプチャプしているとバットの中の方が気持ちよさそうに見えてくる。写真は涼し気な液体の中でユラユラと泳ぎ、ぼくは汗まみれ。

定着が終わった写真をチョロチョロと水が流れる水洗のバットに浸ける。流れる水の中に沈む写真の姿は涼しげで気持ちがよさそうだ。ぼくも水に潜ってバシャバシャとやってこの忌々しい体内にこもった熱を取り去りたい。薬品の中に沈む写真を羨ましいと思ったのは初めてだ。

数枚の本番プリントを終えたとき、水温は24℃だった。保冷剤のおかげで液温は保つことができた。その後暑さでフラフラになりながらRCでワークプリントまで終えると液温は28℃になっていた。

夜家に帰ってニュースを見ていると、この日熱中症で病院に運び込まれた人が全国で数百人いた。それを見て暗い密室で倒れたら誰も気づいてくれないだろうし、夏場のプリントは避けたほうがいいかもしれないと思った。エアコンを直せばいいだけの話だが、夏場そう毎日プリントするわけではないから買い換えるかはちょっと迷うところ。とりあえず36℃の暗室でプリントをするのはしばらくごめんだ。

プロフィール

Author:泉大悟 Daigo IZUMI
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