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老人を撮る

8月初旬のように35℃を超える日がなくて助かる。夏はこうでなきゃ。

少し前に年配男性のポートレートを撮ってきた。昨年、叔父の家を訪れたときポートレートを撮影したらそれがやけに気に入ったらしく、また撮って欲しいという。今回は友人も集まり、四人で撮影することになった。

四人は同級生で今年80歳になる。小学生になる前から知り合いだというから、その付き合いの長さはすばらしいものがある。終戦から70年ということもあり、撮影をしながら終戦直後の生活の様子を聞かせてもらった。B-29が山に墜落したときの話や、「匂いガラス」の話は興味深かった。軍用機の防風ガラスを擦るといい匂いがするなんて知らなかった。

撮影は和室の居間で行った。部屋の入り口から見て奥と左側に窓があって、ともに障子がついている。障子を閉めると柔らかい光がぼわっと入ってくるのでそれを光源にする。背景は床の間。掛け軸を外してもらい砂壁をバックにする。障子の近くに置いた座椅子に腰かけてもらって撮影。体にあたる光と差があるおかげで背景はしっかり黒くなった。

友人三人はみなジャケットやらネクタイやらそれなりに正装するための服を用意していた。仕事に使う白衣(薬剤師だそうだ)まで持ってきている人もいてなかなか愉快だ。

カメラはいつも使っているニコンのF3と50mm。フィルムはトライX。フィルムで人を撮ることなんてほとんどないからすごく新鮮な体験だった。撮られる方もフィルムカメラが新鮮だったようで、まだフィルムあるの?手持ちでいいの?写るの?とか色々心配された。ぼくなんかよりよっぽどフィルムに慣れ親しんでいる世代のはずだけど、写真といえばデジタルカメラという考え方にすっかり切り替わっているようだった。

後日涼しい日を狙って暗室でプリントしてみた。印画紙を現像液に浸すと、赤いセーフライトの光に照らされた液の中に人の顔が浮かび上がってきた。ちょっとドキッとする。普段は風景や静物ばかり撮っているから人の顔のプリントなんて慣れていない。暗室ではいつも一人なので、人の視線なんて感じないし。

現像液の中で老人がこっちを見ている。なんかやりにくい。普段は鼻歌を歌ったり小躍りしたりラジオに文句言ったりしながらプリントしているのだが、人の顔をプリントしているときはそんな気分にはなれなかった。

しかしプリントしてみると老人の肌の質感や、白くなった髪や髭の感じはモノクロームと相性がいいなと改めて思った。できるだけ長生きしてもらって、定期的に撮影ができたら楽しそうだ。


150822.jpg
ポートレート(部分)。
白衣の人の右半身。



150822b.jpg
ポートレート(部分)。
元校長先生の頭部。

プロフィール

Author:泉大悟 Daigo IZUMI
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