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印画紙を使い切る

夏至。朝から梅雨らしい雨が降り、夕方は晴れた。

去年から暗室のエアコンがまったく冷えなくなったので、
盛夏の前にバライタのプリントをする。
一日数時間、10枚を目安に作業する。

買っておいた50枚入りの印画紙の箱を開ける。
未開封の印画紙は人を幸せな気分にする。
目を閉じ、紙を取り出すとき手に伝わってくるあの厚みと重さに安心感を覚える。
紙とは思えない逞しさと頼もしさがそこにある。

箱から厚手の紙を一枚ずつ取り出し、白い紙を写真に変えていく。
5枚、10枚と使ってもその逞しさは変わらない。
ずっとこのままの厚みでいて欲しいと思う。
減らない印画紙が欲しいと思う。

だが半分の25枚を過ぎたあたりでふと気づく。
暗闇の中、手に伝わってくる感触は以前より薄くなってきている。
まだこんなにあると思おうとしても、それはごまかせない。
印画紙に陰りが見え始める。

そこからは早い。数日のうちに印画紙はみるみる痩せていく。
手に触れる紙の厚みは確実に減り、
当初片手で持つには少々重かった箱も、片手で軽く持てるようになる。
遮光用の黒い袋は減量後のジーンズのようにサイズが合わなくなっていく。

残り数枚となった印画紙は物悲しい。
分厚い肉体は見る影もなくなり、印画紙は紙であったことを思い出す。
箱は軽く、指一本でも支えられるようになる。

そしてすべての紙が出払う。
空になった箱を明るい部屋で開けて、すべて使い切ったことを確認する。
インクは残っているが、書けなくなったのでペンを捨てる。
小さくて消しづらいので、消しゴムを新しくする。
ということではなく、端から端まですべてを使い切るということを体験する。

あの分厚く重たかった印画紙はなくなったが、
代わりに分厚く重い写真の束が手元にやってきた。
よさげなものもあれば汚れていて使えなそうなものもある。
水に濡れて乾いた紙は波打っている。

買ったばかりの印画紙は幸せな気分になる。
できあがったばかりの写真にはどんな顔をしていいかよくわからない。

プロフィール

Author:Daigo IZUMI /泉大悟
Photographer.

Website
http://www.dizumi.com/
Instagram
izumi_daigo/

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