記事一覧

タイのナーン県に行ってみる

縁あってタイのナーン(NAN)県というところに行ってきた。タイの北部にある、ラオスと国境を接している場所だ。

ナーンは情報が少ない。ガイドブックを見てもわずか2ページ。ネットを調べるとぼちぼち情報は見つかったが、寺院など同じ場所の情報が多く町の雰囲気がよくわからなかった。地図やグーグルマップを見てもいまいちどんなところかイメージできない。結局そのまま出発の日が来た。

バンコクから国内線で1時間半、小さなナーン空港に降りる。整った空港内は閑散としていて離島に来たような気分。人口密度は高くない。TAXIと書かれたカウンターで声をかけると、10代とおぼしき男性が自家用車で市内の宿まで連れて行ってくれた。車のシートにはキティちゃんのカバーがかかっていた。

タイは今回が3回目。実はそんなに相性がよくない。タイ料理はおいしいけど毎日食べると胃腸が疲れてお腹が空かなくなる。バンコクの暑さと騒音も肌に合わない感じがしていた。でもナーンとは気が合った。

観光客はタイ人がほとんど。国内旅行で人気でリピーターが多いそう。外国人は少なくその中でも8割が欧米人。日本人の観光客はほとんどいないそうだ。チェンマイに溢れていた中国人の姿もなかった。

ホテルでサイズの合わない自転車を借りて市内を巡る。自転車の鍵は?聞くとナーンは安全だから要らないと言われる。高低差が少なく、自転車レーンが整備されているので移動は自転車が便利。市内地図の端から端までほとんど自転車で回れてしまう。タクシーは走っていない。

住宅地の道はきれいに掃除されている。清掃員がいるのではなく、住んでいる人たちがこまめに掃除をしている姿を見かけた。朝散歩していると様々な鳥の声とともにあたりからほうきの音が聞こえてきた。朝にはお坊さんの托鉢があるから、裸足で歩く僧侶のために道はきれいにしているのかなと思った。

2月という時期もあると思うけど日射しはあってもからりとしていて汗はあまりかかない。反対に朝晩は長袖がないと寒いくらい。早朝から路上で開かれている朝市で野菜を売っているおばちゃんたちは皆厚着している。

街を観光していると時々背後で「イープン?」「イープンよ」と会話しているのが聞こえてくる。イープンは日本のことだ。他の国に行くとたいがいチャイナかコリアかと言われるがなぜかナーンではイープンでしょと言われた。

新鮮だったのは言葉が通じないこと。外国だから当たり前だけど、かたことの英語も通じないことが多かった。ぼくも画伯はタイ語はわからない。英語が通じず、タイ語がわからず、筆談も成立しない。となるとジェスチャーと気持ちしかない。しかしそれでなんとかなった。冷たくあしらわれることもなく、お互いになんとか意思疎通をしようと試みる。その感じは久しぶりで新鮮だった。

英語の表記もあまり多くない。町には読めないタイ語ばかりが並んでいるがそれでいいと思う。ひとつの言語で表示がしていあるとすっきりして見える。意味はわからなくてときに困るけど見た目はいい。

町の人はどこか穏やかな印象だった。大きな声で話す人は少ない。タイのことをよく「微笑みの国」と言うけど、初めてそれを体感した。バンコクでもチェンマイでも感じなかったので、微笑みの国は一体どこにあるのか気になっていたがそれはナーンにあった。

値段をつりあげることもなく、キャッチセールスもない。学校帰りの子供たちは通り過ぎる時にこちらを向いて手を合わせ、あいさつをしてくる。こちらも慌てて手を合わせてあいさつする。絵を描いても写真を撮っていてもウロウロしていても特に何も言われない。普段の生活の中にいさせてくれて、そして放っておいてくれる。その中で小さな親切心というか、品のよさみたいなものが伝わって来る。

ある朝、早朝の市場を見学したあと道端の屋台で朝ごはんを食べることにした。古い折りたたみのテーブルの席で注文したものを待っていると、屋台の男性がおもむろにテーブルクロスをさっとかけてくれた。もう一つの席にはかかっていなかったので、多分遠いところから来たであろう外国人のためにおもてなしをしてくれたのだと思う。よく見るとそれはテーブルクロスではなく男性が防寒用に用意したストールだった。その心遣いに我々はすっかり心を奪われ、この旅行で一番豊かな朝食になった。

滞在しているとそうした出来事が少しずつ薄いクレープの皮のように一枚一枚積み重なっていく。そして街への好意がじわじわと濃くなっていく。数日前は情報がなくどんなところかまったくわからなかったのに、今ではすっかりまた来たい場所になってしまった。ナーンのよさはじわじわと時間をかけて浸透して来る種類のものだ。

前にとある居心地のよい喫茶店のオーナーに、居心地のよさはどこから来ているのかを訪ねたことがある。その人は店を作る時はまず店の人の働きやすさを50%、そしてお客さんの居心地のよさを50%で考えていると話していた。ナーンもそんな印象。住みやすいから観光もしやすい。バランスがいい。

いわゆる世界遺産のような有名な観光地はないけど(もちろん見所はあるし見応えもある)、だからその分こうしましょう、ここを見ましょうということがない。余白があるので自由に楽しむことができる。過度にわかりやすくしたり親切にしたりしないで、楽しみ方をある程度こちらに委ねてくる。そんな町にぼくは愛着を覚えるのかもしれない。

プロフィール

Author:泉大悟 Daigo IZUMI
Website
http://www.dizumi.com/
Instagram
izumi_daigo/

月別アーカイブ