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フィルムを現像しながら本を読む

朝ジョギングをすると畑に霜が降りていた。

タイのナーンで撮ったフィルムを現像する。フィルムの現像は「Paterson(パターソン)」というイギリスのメーカーのタンクを使って行っている。真っ暗な中フィルムをリールに巻いて、指定された液温と手順を守って現像を進めていく。あらかじめ用意しておいた水や現像液をタンクの中に代わる代わる入れて、決まった時間攪拌するとネガフィルムができがあがる。

フィルムの現像は業者にお願いすることもできるが、自分で行った方が低コストであることや、好みの薬品を使って現像できることからぼくは自家現像することにしている。

現像中、退屈なのは薬品を入れて攪拌している時間だ。タンクに付属したプラスチックの棒みたいな部品をつまんでタンクの中の液体を混ぜなければならない。現像で約7分(30秒おきに攪拌)。定着で5分。水洗で5分。その間にも1分くらいの工程がちょこちょこある。1分くらいならまったく問題ないが、5分以上の工程はさすがに暇だ。音楽を聴いたり、ラジオを聴いたりして飽きないように工夫をするがキッチンタイマーのカウントダウンが早まることはない。

暇つぶしに最も効果的なのは読書。おもしろい本があれば5分などあっという間。英語の単語集とかの音読も時間が経つのが結構早い。

今回のフィルム現像中は「出来事と写真」(赤々舎)という本を読んでいた。写真家畠山直哉と文筆家の大竹昭子による対話集。畠山氏の深い知識と熟考に熟考を重ねた思考は読んでいてとてもおもしろい。すらすら読むというよりは、話に引き込まれてついあれこれ考えながら読んでしまう。そのせいか時間が経つのが本当に早い。

ふむふむと講義を聞くように本を読みながら液体を攪拌していると、キッチンタイマーのアラームが鳴った。反射的に本を閉じて次の工程に取り掛かろう…と思った瞬間、今自分がどの工程をやっていたのかがわからなくなった。今やっていたのは定着だったっけ?水洗だったっけ?つい本に夢中になってしまいミスをやらかすところだった。あまり熱中しすぎてしまう本というのも困りものだ。

作業を終えたネガをぶら下げて乾燥させる。なんとか今回も無事現像ができたみたいだ。通常はここで一安心しコンタクトシートを早く作りたいなーと思うのだが今回はその気持ちがなかった。

畠山本を読んだあとは、逆に自分のネガフィルムを見つめるのが微妙に辛い、という気持ちになった。自信がなくなるとか悲観的になるとかではなくて、気が緩んでいないか、考えることを続けているか、というようなことを問われている感じがしたからだと思う。「出来事と写真」は攪拌中の時間の流れを早めてくれるだけでなく、身が引き締まる思いをもたらしてくれるフィルム現像にはもってこいの一冊だった。

出来事と写真

プロフィール

Author:泉大悟 Daigo IZUMI
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