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20年ぶりに北京に行く

中国・北京に行ってきた。

今回の旅行は画伯と行くいつもの二人旅ではなく、昨年知り合ったT氏を加えた三人旅だった。今までにない新しい試みだ。

T氏は世界のいろいろな地域の布やパーツを使って装飾品や人形を製作している。あるとき話をしていると、北京にもいい布があるらしいですよ、という話題になった。

そのときは「いつか北京にご一緒したいものですな」「そうですな」「わはは」という社交辞令的な会話だったように記憶しているが、年が明けしばらくするとT氏が「北京本当に行きませんか?」と提案してきた。

提案してきた時期はぼくも画伯も都合がよく、しかも北京行きの航空券はマイルで二人分取れることがわかり、行けない理由はなくなってしまった。ただ他の旅行も控えていたので迷う部分もあったが、なぜか「今回の北京は逃してはなりません」という天啓にも似た直感が働き、思い切って北京に行くことになった。

北京は約20年ぶりだ。さすがに20年も経つとまさに"面目全非"、ありとあらゆるものが変わっていて、留学していた当時の面影はほとんどなくなっていた。久しぶりにやってきた、というよりは別の都市にやってきたかのようだ。

胡同を走る自転車は電動化していた。乗る人も運ぶ物も運ぶ自転車の形も変わってはいないのに、動力だけが「人力」から「電力」に変わっていた。路地を歩いていると音もなく汗もかかず、スイスイと背後から抜いていく人民たちの姿にかなり驚いた。あまりに音がしないから一度轢かれた。電動自転車や電気自動車、電子マネーなどは明らかに日本より普及している。

意外だったのは、人がマイルドになっていたことだ。20年前に日々感じていたあの理不尽さや傍若無人さがかなり緩和されている。お釣りを投げられることもないし、舌打ちされることもないし、唐突に罵倒されることもなかった。

反対に銀行で笑顔で対応されたり、店で素直に列を作っていたり、レストランの中が禁煙になっていたりして、しかもそれに従っているのを見て逆にちょっと心配になったほどだ。行く前に感じていた「久しぶりの中国…ああ怖いな…きっと嫌な目に遭うんだろうな…」という心配は杞憂だった。

5月の北京は湿度は低いが意外と暑い。夏のような日射しの中、T氏の買い付けに同行する。

現地在住の友人(出産間際の妊婦さん、滞在中に無事出産)に案内をしてもらいながら、様々な少数民族の布を見る。山のように積まれた布や大量のはぎれの中から必要なものを手早く選んでいくT氏の目つきと手の動きからは集中と緊張が伝わって来る。

選ばれた布を見せてもらうと、普段布にも少数民族にも縁がない門外漢そのもののぼくが見てもどこか引きつけられる力があった。手織りで作られ、様々な刺繍がほどこされた、草木や動物の血液などで染められた古布は色彩や質感が豊かで、独特な魅力を放っていた。

ただ単純にきれいと感じるということではなく、ちょっと不気味で、近寄りがたい存在だったがそれが実によかった。言葉にしにくいが、小さな布の背後に大きな何かを感じるというか。これらの布からどんなものができあがるのか想像がつかない。

北京は広い。買い付けが終わるとついでにどこか観光でも、という気分にはならない。地下鉄は便利だが乗り換えに駅構内を長く歩かなければならないし、中心部だとタクシーはうんざりするほど捕まらない。おまけに渋滞もひどい。

ということで夕方にはさっさと四合院を改装したホテルに戻り、風のよく通る中庭で、胡同で老北京のおじさんたちと雑談しながら買ってきた羊肉串とライチとハイネケンを楽しみながらのんびり過ごすのが日課になっていった。天安門広場すら見に行けなかった今回の旅行だが、それでも十分満足だった。

20年前、ビールも飲めない未成年にはわからなかった北京の楽しさ。近いし、美味しいし、見るべき所も多い。帰国早々早くも北京が恋しくなっている。


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プロフィール

Author:Daigo IZUMI /泉大悟
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