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やすりをかける

蝉と鈴虫と彼岸花が混在している。

代々木上原に行ったとき、好きな店であるRaoudaboutに寄ってみた。入り口付近に積んであった木箱が目に入る。ヨーロッパの農家で使われていたであろう古い木箱は、店内のディスプレイ用に使われているので、これもお店用のものだろうと思ったら値札がついていた。これ買えるのか。店内の木箱の質感が前から好きだったので、これは購入せねば!と興奮気味にいくつか購入することにした。

後日配送されてきた木箱は家の中に置くと店先で見たときよりも野生的に見えた。屋外に置かれるべき物が家の中にあることの微妙な違和感。店員さんからブラシで洗いはかけたと聞いていたが、それでも室内に置かれるとなかなかの存在感だった。

送られてきた商品には手紙がついていて、やすりがけをするといい風合いになり、愛着もわきますよとあった。木のやすりがけなんて中学校の授業以来やっていない。さっそく買って来た紙やすりで木箱を研磨してみる。ささくれをとり、表面を削り、角を丸くする。黒っぽい板の色が変わっていく。慣れない作業でありながらも、始めるとおもしろくて数時間にわたり黙々とやすりがけをしていた。

やすりがけをしていると色々なことが頭をめぐり、なかなか考え事に向いているような気がした。どこか靴磨きと似たような感じがする。心が荒れた日はやすりがけをしたい。やすりがけはささくれだった木だけでなく、精神をも滑らかにする。もしかするとやすりがけカフェなどがあったらいいのかもしれない。冷めたコーヒーとともに黙々とやすりをかける。ただ静かにやすりをかける。その過程で何かを閃くかもしれない。一枚の紙やすりがあなたのクリエイティビティを光らせるかもしれない。しかし目的もなくただやすりをかけるなんてぼくはごめんだ。

やすりがけをした木箱は少し色が薄くなって、部屋に馴染むようになった。染みついていた土っぽい匂いも消えた。

以前から自宅で物を撮影するときに、背景として使えたりする家具や小物がもう少し充実していると便利だろうなーと考えていた。家具を買うなら「撮影に使えること」「展示で活用できること」の二つの基準を満たすものを選びたいと思っていた。

その第一歩が木箱になった。この古い木の質感がなんともいえない。やすりがけというひと手間を経て部屋に馴染んだドイツから来たリンゴ箱は三段に積み重ねられ、部屋の中で独特の存在感を放っている。ぼくはそれを眺めつつ、にやにやしている。


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プロフィール

Author:Daigo IZUMI /泉大悟
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