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ガラス乾板をプリントする

4月に入る前から桜が散り始めていた。今年の桜は早かった。

友人が骨董市で買ったというガラスのネガを見せてくれた。写真乾板(ガラス乾板)というものだそうだ。光に透かして見てみると、人の姿が写っている。手にしながらふとこれ暗室でプリントできそうだなと言ったら、ネガを貸してもらえることになった。

ガラスのネガなんてもちろんプリントしたことはない。ぼくの暗室は35mmの写真しかプリントしないので、色々なフォーマットの写真をプリントする設備はない。ガラス乾板はガラスの厚みがあり、ネガキャリアに挟むことができないので、直接引き伸ばし機のネガキャリアを差し込むところにそっとネガを置いてみた。ルーペを覗いてピントを合わせると、ちゃんと粒子が見える。おお、普通のネガといっしょだ。すごいぞガラス乾板。

早速一枚プリントしてみる。薄いネガだったので露光時間を調整して明るめにプリントしてみた。するといつものネガと同じように現像液の中に画像がすーっと浮かび上がった。本当に使えたよ、すごいぜガラス乾板。軽く興奮しながら現像液の中に沈む印画紙を見ていたら見知らぬ異国の人の顔が浮かび上がってきてちょっとびっくりした。はしゃいですいませんという気分になる。

一枚は小さな女の子が風景の端に立っている写真だった。足元には犬がいる。もう一枚は4人が写っている写真だった。庭のような場所で赤ちゃんを抱く母親と、それを見つめる年配女性が椅子に座っている。隣にはスーツ姿の年配男性がカメラの方を向いて座っていた。雰囲気的にきっと家族なのだろう。孫との記念写真かもしれない。顔つきから場所はヨーロッパのようだ。

Wikipediaによると1888年にフィルムが出てからガラス乾板は需要が減ったとあるので、時代はざっくりと考えても100年以上前だと思う。そうか、ここに写っている赤ちゃんを含むすべての人たちがもうこの世にいないのか。

乾いたプリントを見ながら不思議な縁だなーと思った。誰が撮ったのかわからない一枚の写真。写っている人が誰なのかもわからない写真。時代も場所もはっきりしない写真。そのネガを友人が2018年の春の東京で見つけて、ぼくがプリントして、今眺めている。シャッターを押した瞬間から、どういう道を通ってここに辿り着いたのだろうか。手元にある写真の情報のすべてが現在の自分から遠く離れすぎていて、奇妙な感じがした。

同時にこういうネガはなかなか面白いな、とも思った。100年近く前のガラスでできたネガでも、普通にプリントすることができる。ぼくは旅行先で骨董市や蚤の市、アンティークショップなんかに出会うとよく古いモノクロームのポストカードを買う。印画紙をそのままポストカードにしているものも多いので、小さなプリントを買うような感じがして楽しい。これからはポストカードだけでなくネガも探してみるといいかもしれない。35mmフィルムだったらプリントもしやすいのでなおよさそうだ。

今のデジタルカメラの写真も100年後にプリントできるのだろうか。パリの骨董市で見つけた100年前のSDカード(かすれた字でSANDISKと書いてある)に入っていたRAWデータを、100年前の古いパソコンを使って読み込んで...とかやるのかな。そんな光景はちょっと見てみたい気もする。




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Author: 泉 大悟 / Daigo IZUMI
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