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水戸に行く

台風が去ってもまだ風が強い。

水戸に行ってきた。目的は水戸芸術館の内藤礼の展覧会。展示のアナウンスがあってから、ずっと楽しみにしていた。夏休みが終わった頃行こうと密かに心に決めていた。ひとつの美術館を、ひとつの展覧会を目指して出かけるのは楽しい。

今回の展覧会の照明は自然光だけ。天気によって見え方も印象も変わる展示。この日は晴れ時々曇り、というような天気だった。高い天窓から柔らかい自然光が部屋全体を照らしている。空間は白い壁で覆われていて、所々に淡くじんわりとにじむような影が見える。展示室に入った瞬間からすごく居心地がよかった。

ぱっと見たところ、どこに展示されているのかわからないような、すぐに目にすることができない作品があった。係りの人の案内に従ってぐるりと部屋の中を歩くとそれがちらっと見えた。風や空気の動きなど、普段意識することがないものをそこに思い出す。透明なものを視覚的に見えるようにしてくれている。

そういえば今年冬、雪が降ったときに結晶を写真に撮ってみたことがあった。雪の結晶は降っているときは見えない。しかし毛糸の帽子の上には確かにあの独特な形があって、それはちょっとした手の熱でさっと解けて水滴になった。作品を見ながらなぜかその雪の結晶が連想された。

作品のひとつひとつが丁寧に、的確な場所に置かれている。ここしかないのだろうという場所にそっと置かれている印象を受ける。明るい部屋と暗い部屋が交互にやってくる。部屋の中は線対称のようになっている。どこか鏡の中にでもいるかのような気分になってくる。こういう空間を作ることができるようになるまで一体どれくらいの時間がかかったのだろう。

白いキャンバスにアクリル絵の具で描かれた作品「color beginning」をじっと見つめる。壁にとりつけられた板の上に作品が置いてあり、それは少し斜めになっている。天窓からの光を正面から受け止めるような角度。それをしばらく見つめる。作品を照らす自然光が変化すると、見ている目の露出も変わる。ホワイトバランスも変わる。すると絵が変化して見える。雲に日が遮られると気持ち黄色っぽく絵の色が変化する。日が射しこむと白がより白く、ときには発光しているように見える。動かない絵が刻々と変化する。そこに目の残像なども加わって、小さなキャンバスがとても広く深く見えてくる。

展覧会を見ていると持って帰りたいと思う作品と出会うことがある。内藤礼の作品を見ていて思うのは、作品をひとつ持って帰ってもこの「持って帰りたい」欲求は満たされないだろうということ。作品がひとつだけあっても仕方がない。

作品がひとつある。近くにもうひとつの作品がある。その作品と作品の間も作品になってしまうからだ。ぼくはたぶんその、作品と作品の間の余白を含めて持って帰りたいのだと思う。つまり持ち帰ることはできない。唯一できることは、そのとき存分に味わうことだけ。

もし水戸に住んでいたらきっといろいろな天気の日に観に行くんだろうな。できることなら、日が沈む(あるいは朝日が昇る)までじっと部屋の隅っこにじっと立っていたい。



水戸芸術館 現代美術ギャラリー
内藤 礼―明るい地上には あなたの姿が見える
2018年7月28日[土]~ 2018年10月8日[月]

プロフィール

Author:Daigo IZUMI /泉大悟
Photographer. 
モノクローム写真が好きです。

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