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ジッツオを買う

穏やかな秋晴れが続いている。

小型の三脚を買うことになった。前々から気になっていた軽くて小さく畳めるトラベラータイプの三脚を調べ始める。このトラベラー三脚、軽い上に折りたたむととってもコンパクトになるので、その名のとおり旅行者や山登りをする人たちに愛されている。

用途と予算を考えながら各社商品を比較していく。さすがに三脚は実際に触ってみないと使い勝手がわからないので、新宿のヨドバシカメラにお邪魔してみることにした。

カメラ総合館の4Fには三脚がずらりと並んでいた。さながら三脚の森のようだ。さすが本店のカメラ総合館。名に恥じぬ品揃え。

森の一角にはトラベラータイプの三脚が集合していた。あまりの品数に目移りするが、ある程度予習をしていたおかげで平静を保っていられる。

ぼくの用途だとどのメーカーのものでも使い勝手はよさそうだった。重さ、畳んだ時の大きさ、伸ばした時の高さ。実際に手にして畳んだり伸ばしたり、雲台(カメラを固定する台座部分)をいじったりしながら撮影のときのイメージをする。かなり真剣に時間をかけて触る。

重さと使い勝手のバランスがいいイタリアの「マンフロット」。軽さと高さと独創的なLEDライトがついている日本の「スリック」。圧倒的低価格とお値段以上の機能性で心をくすぐる台湾の「バンガード」。どれもぼくの条件を満たしてくれるので迷ってしまった。一体ぼくはどれを選ぶべきなのか。

ふと森の最深部(店の一番奥の方)を見やると、そこにはどこか雰囲気が他社と異なる三脚が鎮座していた。フランスの「GITZO(ジッツオ)」だ...。

その名前はかねてから何度も周囲の人々から聞いている。歴史と伝統と革新性を備えた三脚の名門。三脚の足元には特別に布が敷かれていて、高貴な雰囲気を演出している。三脚の森の貴族。

名門ゆえにジッツオは値が張る。先ほどあげた各社の三脚は2万〜4万円台。対してジッツオは10万円〜といったところ。ぼくの用途に合うもの(GK1545T-82TQDという暗号のような名前の三脚)は13万円だった。文字通り本当に桁が一つ違っている。

だから決めていた。「ジッツオは見ない、近づかない、触らない」と。そう心に決めていた。しかし頭上の看板にはジッツオの歴史紹介とともにぜひ触ってみてね、とあったのでせっかくだからまあ…と触ってみた。するとダメだった。戻れなくなってしまった。

使いやすさ、安定感、手になじむ感触、各パーツのしっとりとした手触り、適度な重さ。試しにちょっと触ってみただけでそれらが存分に伝わってきて、さっきまで見ていたものとの確かな差を感じてしまった。これは使いたくなる。持ち歩き、長い一日をともにするのだから一緒にいて居心地がいいものを選びたいと思うのは正常だろう。

もちろんさっきまでの他社の三脚が悪いわけではない。ただジッツオは力の入れ方が尋常でないのだと思う。多分各部に一切の妥協がなく、少しずつ標準を上回って仕上げられているのだろう。それらが集まり、一本の三脚となることで、最終的に他社との間に圧倒的な差をつけている。上質なコーヒー豆やいいホテルの快適さにも似た心地よさ。カタログを見たらアンバサダーの人が三脚にキスをしていたがその気持ちはちょっとわかる気がした。クセになる感じがある。

危ない。ぼくは一旦三脚の森を離れることにした。頭を冷やすために一日空けることにして家に帰った。だがその間、頭が冷えるどころか反対にジッツオへの想いが膨らむ一方だった。悩みに悩んだ挙句、意を決して購入を決めた。人生にはカメラを支える棒に13万円支払うこともあるものだ。

実際に取材で使ってみると快適そのもので、後悔は微塵もなく満足感に包まれる結果となった。何年か使った暁にはぼくも軽くキスくらいするようになるのだろう。

ちなみに今回の買い物でヨドバシの店員さんもすごいと思った。彼らは決してジッツオを勧めてこなかった。しかしジッツオに触れて感激しているぼくの気持ちを汲んでくれるとともに、共感を示してくれていた。多くを語らない商品説明の会話の背後には、こんな無言のやりとりがあったように思う。

「(やはりジッツオですよね…)」
「(ええ、ジッツオですよね…)」

プロフィール

Author:Daigo IZUMI /泉大悟
Photographer. 
モノクローム写真が好きです。

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