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眠っていても髪は伸びる

冬至が近づきいよいよ日暮れが早い。

書店で見かけた写真集に惚れ惚れした。パラパラっと眺める程度にするつもりが気がつくとしっかりとその本を手に持ち、じっくりと1ページ1ページを堪能してしまった。Orhan Pamukの「Balkon」という一冊。出版社はシュタイデル。

イスタンブールの港の風景が延々と、淡々と続く。天気は移ろい、季節は巡る。どんなときでも船はやってきて、去っていく。自宅のバルコニーから望遠レンズで撮影しているらしい。何も知らずに見ていたが、後で作者は写真家ではなく作家であることを知る。驚いた。さらにノーベル文学賞を受賞している作家だと知り驚いた。無知なぼくは二回盛大に驚いた。

髪が伸びてきた。気がつけば結構長くなってきた。

久しぶりに会った人に髪が長くなりましたね、と言われる。ええ、今年イタリアに行ったもので、と思わず返事をしてしまう。案の定意味がわからないといった顔をされる。選ぶ言葉を間違った。ことの経緯はこういうことだ。

今年5月にイタリアに行ったとき、ボローニャの中心部にあるフードコートのようなところで画伯と揚げたピザ(ピッツァ・フリッタというやつ)とパスタを食べていると、ふと入口近くの店で働く男性に目がいった。長く伸ばした金色とブラウンの混じった髪を後ろできちっと結っていて、それがすごく似合っていた。

それから街を歩くと、髪の長い男性がちらほら目に付くようになった。イタリアには髪が長い男性が多いのか。初夏のようなイタリアの陽光とその場の雰囲気に流され、一丁ここはぼくも長くしてみようではないかと決意し、現在に至る。

というようなことをもろもろ端折って簡潔にまとめた一言が「今年イタリアに行ったもので」だった。ちょっと端折りすぎだ。

髪を伸ばすのは楽でいい。放っておけば自然に伸びていく。寝ているだけでも伸びていく。実に楽なものだ。ランニングはしばらく休むと距離が走れなくなるし、筋力も使わないとすぐ落ちる。英単語も構文も前に見た映画の気の利いたセリフも腹筋も背筋もみな放っておいたらなくなっていく。

髪の毛のように放っておいても自動的に前へ前へと進んでくれるものはなかなかない。自分にまつわるすべての事象がこのように前に前に進んでくれたらと思う。放っていたら英単語で頭の中がいっぱいだった、とかそういう感じで。

プロフィール

Author:Daigo IZUMI /泉大悟
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