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早朝と写真

旅行にでかけたときの楽しみは早朝の撮影。

目覚ましは夜明けの1時間ほど前にセット。窓の外はまだ真っ暗。さっと着替えてカメラとフィルムをバッグの中に入れる。ホテルのカードキーを忘れずに持ち、部屋のドアを閉める。

明かりがついたままの静まり返ったホテルのフロントを通り、外に出る。日中歩いたときとは違う、まだ人や車がかき回す前の少しひんやりとした空気を感じる。

東の空は濃い群青色をしている。右に向かうか、左に向かうか。頭の中にある地図と周囲の雰囲気を頼りに適当に歩き始める。

特に目的の場所はないのでゆっくり歩く。昼間よりだいぶゆっくり歩く。靴越しの石畳の感触。チェーンでつながれたカフェのテーブルと椅子、教会の前の階段に置かれた酒瓶、空の煙草の箱、ライトのついたショーウインドウ。風に揺れる木々の葉の音。人気はなく、誰ともすれ違わない。気持ちがいい。

動くものが少ないと、色々なところに目がいく。いつも見落としているものに気がつくこともあれば、ものが普段と違って見えることもある。道ゆく人や車を気にせず、目の前にある気になったものを心ゆくまで見つめることができる。

早朝のこの時間帯には、人の居場所はないような気もしてくる。人が主役ではない場所にいる感じ。

街中にあるもの、例えば物や建物が人格をもって(映画の「ナイトミュージアム」みたいに)何かを語り合っているところを、片隅からこっそりと見ているような、何かを邪魔してはいけないという気持ちになる。

そんな中で写真を撮っていると、次第に夜が明けてくる。少しずつあたりが明るくなって、色が戻ってくる。ところどころに影が生まれる。日の出とほぼ同時刻には、街灯が一斉にふっと消える。

遠くから話し声が聞こえてきた。二人の男性が歩きながらゆっくりとこちらに向かってくる。手にはビール瓶が見える。夜通し飲んだのだろうか。ちょっと警戒しつつ、写真を撮っていた。すると声をかけてきた。「俺たちも撮ってくれ!」。カメラを向けると肩を組み満面の笑顔になった。そして「グレイトデイを」と言い残し、去っていった。

人が建物からポツリポツリと出てきて通勤が始まる頃、ホテルに戻る。撮り終えたフィルムの蓋に日付と地名を書き入れる。撮影済みのフィルムには「朝」と書かれたものが意外と多い。

プロフィール

Author:泉大悟 Daigo IZUMI
Website
http://www.dizumi.com/
Instagram
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