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階段と記念写真を

グーグルマップでとある道を調べた。フランス、パリ、モンマルトルにあるという「ミュレ通り(Rue Muller)」。

ぼくはフランスに行ったことがない。なのでモンマルトルという地名は聞いたことがあっても、そこがどんなところかはさっぱりわからない。ストリートビューで見てみるとまっすぐなだらかな坂道で、その行き着く先にお目当ての階段が写っていた。「サクレクール寺院」へと続く長い階段。そう、ここが現在どんな様子なのかを知りたかったのだ。

少し前に、この階段を舞台にした写真集を買った。フランスの「INNOCENCES」という出版社から出ている本で、タイトルは「TO HEAVEN」。Amazonなどで見つからなかったので出版社から直接購入した。

かつてこの階段のふもとに一人の写真屋さんがいた。フランソワ・ガブリエル(François Gabriel)という人で、彼は階段のふもとで寺院を訪れる観光客の記念写真を撮影販売していたそうだ。この写真集にはガブリエル氏が1920年〜50年頃までの30年間の間に撮られた記念写真が収められている。

写真はすべて縦位置で、ほぼ同じ場所から階段全体が写るように少し引いた位置から撮影されている。まるで定点観測でもしているかのようだ。

着飾った人、汚れた作業着の人、パンを運ぶ人、大きな荷物を肩に担いだ人、軍服を来た人、犬を連れた人。年代も赤ちゃんから老人までと実に幅広い。たまたまそこに居合わせた人が写っているのだろうから、今で言えばディズニーランドのスプラッシュマウンテンとかのアトラクションに乗っているときに撮られた写真のような感じかもしれない。

見ているとなんとなく最近の人より立ち姿が決まっているような気がする。体を斜めにして立ったり、手すりを握ったり、腰に手を当てたりするなど、立ち姿で自分を主張をするのが上手だ。それが複数集まることで、不思議と群像としてまとまって見える。

こういう写真を見ていると、自分も集合写真に写る時は立ち姿で自らを主張しないといけないような気がしてくる。ぼんやりした顔でピースサインをしているようではだめだ。私はここに生きた、ということを証明するようにしっかり立たなければいけない。

実際写真の中には戦争で帰ってこなかった人もいるようだ。階段の下には街灯が立っているのだが、それが画面の背骨のように安定感を与えてくれている。だが戦時中は空襲を避けるために覆いが施され、その後撤去されてしまっていた。人は死ぬ。街灯も死ぬ。階段だけが生き残る。30年間変わらず撮影された観光地の記念写真からその時代の背景が浮かび上がってくる。

最初はそこに写っている人々に目が行きがちだったが、この写真集の主役は人ではなく階段であるように思えてきた。30年の間に撮影された、寺院(天国)へと続く階段の記念写真集。

しかし撮影したガブリエル氏も写った人たちも(もちろん階段も)これが一冊の本になるとは思わなかっただろうな。もしかするとスプラッシュマウンテンの写真も300年後くらい後にいきなり写真集としてまとめられたりするのかもしれない。私はここに生きた、としっかり気合いを入れてバンザイしておくべきなのかもしれない。


toheaven.jpg


送られてきたときの箱がぴったりで気持ちがよかったのでケースとして使っている。
発行数200部。
http://www.innocences.net/product/to-heaven
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Author: 泉 大悟 / Daigo IZUMI
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