ヘリノックスの椅子を買う
ヘリノックスのチェアを買った。キャンプでよく使われている軽量の椅子で、折り畳むと小さくまとめることができる。
旅行で北海道屈斜路湖に行ったとき、湖畔に椅子を出してくつろいでいる人がいた。その日は天気もよく、風もなかった。湖面は一枚の大きな鏡のようになり、空と対岸の山々を線対象の姿でくっきりと映し出していた。こんな場所でのんびりできたらいいなーと遠目から見ていた。
小さな椅子が気になり、探してみるとヘリノックスの椅子が便利そうだということがわかった。試しにまずひとつ買ってみて、家の中で使ってみる。座り心地は上々。組み立ても楽々できる。家の中だが折り畳むことなくそのまま常設されることになった。夫婦二人用にもうひとつ購入し、早速どこかに出かけてみることにした。
思いついたのは日光の中禅寺湖。旧イタリア大使館別荘記念公園のあたりは静かで好きで何度も行っている。あそこで一日過ごしてみようということになった。
紅葉の少し前の時期、朝のいろは坂を登って中禅寺湖へ。ぼくと妻の画伯のバックパックの中にはそれぞれ一脚ずつ椅子が入っている。地面が平そうな場所を見つけ、そこに椅子を出すことにした。シートを敷き荷物を置く。椅子を組み立てる。どれどれと湖面に向かって腰掛けてみると、屈斜路湖でくつろいでいた人の気持ちがわかった。これは気持ちがいい。広い空の下、椅子に身を沈めるこの快適さ。目線が低くなっていつもと風景が違って見える。
キャンプ用品にあったコンパクトにたためる小さなテーブルも買っていたのでそこにお茶やらを置いてお昼を食べる。画伯は色づき始めた日光の山の色を水彩絵の具で描いている。
移動することなく、一ヶ所でじっとする。特に何もしない。そうすると視線の速度が次第に緩やかになっていく。頭の中の考え事も徐々に片付けられていく。
普段、心は外部からの刺激で動かされている。それが何もしないでいると自ら動くようになる感じがする。動かされるのではなくて、自主的に動く。うまく言えないけどその感じが好きだ。
夕方、西の山に日が沈む頃、椅子を畳んで帰る。小さな椅子ひとつでずいぶん幸せになれるものだな。